エスプリの効いた至極のフレンチ・ジャズ。ECMからピアノとクラリネットの新作が登場

Louis Sclavis - Unfolding

ルイ・スクラヴィス&ベンジャミン・モウゼイ『Unfolding』

クラリネット奏者のルイ・スクラヴィス(Louis Sclavis)、そしてピアニストのベンジャミン・モウゼイ(Benjamin Moussay)というフランスを代表する二人の音楽家によるデュオ作品『Unfolding』がECMからリリースされている。25年の長い歳月を良き音楽パートナーとして協力しあってきた二人は近年デュオ演奏にも力を入れており、ヨーロッパ・ツアーでも人気を博してきた。今作はその集大成的な作品で、極度に集中した音空間で至上の音楽を探究している。

収録された9曲のうち(4),(7),(8)がルイ・スクラヴィスの作曲、残りの6曲はベンジャミン・モウゼイの作曲。ドビュッシーを彷彿させるエスプリの効いた表現から、現代音楽的な即興まで自由に行き来する演奏には、二人の静かに燃え上がるような情熱が宿る。特に即興においては“語り合う”というよりも、“おしゃべり”という表現が正しく思えるほどに意外と饒舌なのが面白い。

(1)「Unfolding」

楽器の音色の美しさを堪能できる奥行きのある録音も、やはり素晴らしい。透明感があり、ハーモニーの溶け込むピアノ。そして低音は海のように深く、高音は雲まで突き抜けるような音色を奏でるグラナディラの管の響き。こうした楽器の豊かな音自体に浸ることができるのも、小編成のアンサンブルの愉しみだ。

プロデューサーはもちろんマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)。リスナーを徐々に引き込むECMの魔法のような音楽体験の極致といえる、素晴らしい作品だ。

(4)「A Garden in Ispahan」

Louis Sclavis 略歴

木管奏者ルイ・スクラヴィスは1953年フランス・リヨン生まれ。9歳からクラリネットを習い始め、さまざまなブラスバンドやグループで経験を積んだ。リヨン国立高等音楽院で学び、デビュー後はジャンゴ・ラインハルト賞「最優秀フランス・ジャズ・ミュージシャン」(1988年)、バルセロナ・ビエンナーレ最優秀賞(1989年)など様々な賞を獲得。1991年の『Rouge』を皮切りに、名門ECMから数多くの作品をリリースしている。
前衛的な表現や室内楽的な表現も得意とし、楽器はクラリネット、バスクラリネット、ソプラノサックスを演奏する。

Benjamin Moussay 略歴

ピアノ奏者ベンジャミン・モウゼイは1973年にフランス北東部のストラスブールに生まれた。ストラスブール音楽院でクラシックのピアノを専攻していたが、セロニアス・モンク(Thelonious Monk, 1917 – 1982)のアルバム『Thelonious Alone in San Francisco』(1959年)に出会ったことでジャズを志すようになり、パリ国立高等音楽院に入学してジャズピアノを専攻した。

ルイ・スクラヴィスとは1998年以来の共演歴があり、数々の録音に参加。2020年にはソロ作品『Promontoire』をECMからリリースしており、クラシックで培ったテクニックと豊かな抒情性で高い評価を得ている。

Louis Sclavis – clarinet, bass clarinet
Benjamin Moussay – piano

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