フレンチポップの流れを汲む懐かしくて新しいアートポップ。注目のSSWアナット・モシュコフスキー

Anat Moshkovski - ANAT

注目のSSW、アナット・モシュコフスキー 初のフルアルバム

イスラエル・テルアビブのSSW、アナット・モシュコフスキー(Anat Moshkovski)の初のフルレンス・アルバム『ANAT』が素晴らしい。1970年代前後のフォークロックやフレンチポップの手触りのある良質なポップスで、アコースティック楽器を軸にした室内楽的な優しいサウンドに英語やフランス語の歌詞を乗せて優美に歌う。

(1)「Jamie」から、彼女の感性の美しさが際立つ。憧憬の対象である“ジェイミー”という人物に向けた気持ちの吐露を、懐古主義的なサウンドが包み込み、なんとも言えない多幸感やノスタルジーを感じさせてくれる。ベース/ギターのオメル・ショーンベルガー(Omer Schonberger)のギターソロがまた素晴らしい音選びでグッとくる。クラリネットはアナット・モシュコフスキー自身の演奏。

(1)「Jamie」

(2)「If We Fail」はボサノヴァを経由した“フレンチポップ”の典型的なイメージの良曲。印象的なフルートの演奏はブラジル音楽に造詣の深いサリット・ラハヴ(Salit Lahav)が務めている。

(2)「If We Fail」

他の収録曲も秀逸だ。
美しいワルツ(3)「Lightnings」、Roland TR-808 のような独特のドラムマシンの音が懐かしい(4)「Teddy Bears」、ギタリストのナダフ・ホランダー(Nadav Hollander)との共演(5)「On a Tout Fait」、印象的なローズピアノの演奏と音響的な広がりをもったサウンド・デザインの(6)「Obscure Clarté」、ダークなアートポップ(7)「Encore」。全体として繊細な感情の起伏と、それをアーティスティックに表現する豊かな感性が発揮された素晴らしい作品となっている。

(5)「On a Tout Fait」

Anat Moshkovski 略歴

アナット・モシュコフスキー(ヘブライ語:ענת מושקובסקי)は1991年にテルアビブ近郊の都市ホロンで生まれた。6歳からピアノ、11歳からクラリネットを始め、高校では音楽を専攻したが、テルアビブ大学では地球物理学と惑星科学の学士号を取得、その後は数学の教員免許の勉強をし、2021年にはパリのソルボンヌ大学で教育学の修士号を取得した。

2010年頃からイスラエルの奇才SSWウジ・ナヴォン(Uzi Navon)のバンドにコーラス/クラリネット奏者として参加し本格的に音楽活動を開始。2017年には自身の最初のEP『Happy as a Dog』をリリースし、同年、イスラエルを代表する音楽家であるヨニ・レヒテル(Yoni Rechter)のアルバムにバッキング・ヴォーカリストとして参加し、アルバムのリリース・ツアーに参加した。

2020年にシュージン(Shuzin, ウジ・ナヴォン=ヨナタン・レヴィンのペンネーム)のプロデュースによってフレンチポップに仕上げられたヨニ・レヒテルのフランス語カヴァー「La Petite Fille la Plus Jolie du Monde」は大きなヒットとなった。

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