ルーシー・アウヴェス新譜『Gato do Mato』
ルーシー・アウヴェス(Lucy Alves)という女性は2000年代以降のブラジル音楽の中でも、もっとも魅力的なアーティストの一人だと思っている。クラン・ブラジル(Clã Brasil)というほぼ家族で構成されたバンドでデビューし、番組『ブラジルの声』で一躍有名人となり、その後は女優や歌手として華々しい芸能の道を歩んできた彼女だが、その洗練された佇まい以上に音楽家(歌手、マルチ奏者)としての魅力があり、そしてその魅力はどれだけ成功しようとも、どこか垢抜けなさの残るブラジル北東部音楽が彼女のルーツにあることに起因しているように思う。
2024年末にリリースされたルーシー・アウヴェスの新作『Gato do Mato』には、ほぼすべてが彼女のオリジナルである10曲が収録されている。現代的なサウンド・デザインだが、根幹にあるのはブラジル北東部の音楽であるフォホーだ。アルバムタイトルは“ヤマネコ”を意味し、ルーシーは自分自身を山猫のイメージと重ね合わせている。田舎から大都市への人々の流出、故郷への愛といったテーマもこの作品では歌われている。
収録曲はアコーディオンが多用され、トライアングルやパーカッションを用いた北東部音楽のリズムとともに彼女が北東部出身であることをあらためて強調している。レゲエやセルタネージョといった要素も加わり、魅力的なポップスとして仕上がっている。
(5)「Lascou」にはPlanta e Raizというバンドのヴォーカリスト、Zeiderがゲスト参加している。
Lucy Alves 略歴
ルーシー・アウヴェス(本名:Lucyane Pereira Alves)は1986年パライバ州ジョアン・ペソア生まれ。音楽好きの両親や姉妹に囲まれ幼少期から様々な楽器に触れ、特にアコーディオン、ヴァイオリン、バンドリンといった楽器のマルチ奏者となった。パライバ連邦大学で音楽の学位を取得。2000年代初頭にはルーシーと三姉妹の妹であるラリッサ(Laryssa)とリゼッチ(Lizete)を中心とし、母のマリア・ジョゼ(Maria José)、父のジョゼ・ヒルトン(José Hilton)も参加するバンド、クラン・ブラジル(Clã Brasil)で活動。ブラジル北東部の伝統的な音楽であるフォホーを中心に演奏し、ジョアン・ペソア市から「アリアーノ・スアスーナ賞」を贈られるなど人気となった。
2013年にタレントショー『The Voice Brasil』に出場し準優勝。人気を得た彼女はテレビドラマの役を得るなど、ソロでの音楽活動と並行して俳優として活動の幅も広げた。
今作は『Gato do Mato』は『Perigosíssima』(2022年)以来2年ぶりのアルバム。