独自の音楽芸術を探求するファイベル・イズ・グローク新作
予測不能な奇妙なポップネスが炸裂する話題作!米国ニューヨーク出身のマルチ奏者ザック・フィリップス(Zach Phillips)と、ベルギー・ブリュッセル出身のシンガー、マ・クレマン(Ma Clément)によるオルタナ・ジャズポップ・ユニット、ファイベル・イズ・グローク(Fievel Is Glauque)による2024年作『Rong Weicknes』。そのオリジナリティは新鮮で突き抜けており、キャッチーでアーティスティックなセンスに脱帽。
アルバムのタイトルは「Wrong Weakness」(間違った弱さ)のミススペル。無邪気な子どもの絵のようなジャケットが、彼らの音楽性の魅力を完璧に捉えている。つまり、芸術や感性に正解などないということ。可愛らしく騒々しく、飾らずにありのままを表現し、心の赴くままに遊び、踊り、歌う。無茶苦茶なようでいて、破綻なく調和している。彼らの音楽は、現代美術を観て“感じる”それに近いかもしれない。
アルバムには15曲が収録されているが、多くは2分から3分程度で次の曲へと目まぐるしく移り変わってゆく。しかし、曲に秘められた音楽的な情報量はとてつもなく多い。バンドも当初はザックとマ・クレマンのデュオ編成だったが、いつの間にかギターのトム・ギル(Thom Gill)、ベースのローガン・ケイン(Logan Kane)、パーカッションのダニエル・ロッシ(Daniel Rossi)、木管奏者のアンドレ・サカルソト(André Sacalxot)、ドラムスのガスパール・シックス(Gaspard Sicx)、ギター/エレクトリック・シタールのクリス・ワイズマン(Chris Weisman)から成る、国際色豊かな若手の名手たちがその実力を証明するフルバンドとなった。一癖も二癖もある楽曲たちは、彼らの個性的な生演奏によってその魅力を何倍にも増幅させられている。
(1)「Hover」から、良い音楽として成立するギリギリのラインを攻めまくる彼らのアグレッシヴな姿勢に惚れさせられる。既存の音楽理論への“生意気な挑戦”のようにも思えるほど音楽的に攻撃的な作風だが、マ・クレマンの飄々としたヴォーカルはその真逆にナチュラルにリラックスしており、その対比が最高に面白い。
不可解だからこそ何度も聴いてしまうし、繰り返し聴くうちに彼らの手中にハマっていってしまう。こういうものを“魔法”というのだろう。(2)「As Above So Below」は妙にポップで、どこか1960〜70年代のフレンチポップを思わせるが、ところどころ唐突に怪しげなコード・チェンジが差し込まれエキサイティングだ。
(4)「Love Weapon」や(5)「Rong Weicknes」などは特に、スティーリー・ダン(Steely Dan)やステレオラブ(Stereolab)のミックスと評される彼らの音楽性を端的に表している。それでいて、意表をつく楽曲構成に Fievel Is Glauque ならではのアイデンティティを強く印象付けられる。
突出した曲ばかりのアルバムの中でも、(9)「Kayfabe」は混沌とした社会を映すディストピア・ポップの側面を強く反映している。混沌と調和の見事なバランス。
クリス・ワイズマンが弾くオリエンタルな風味を醸すエレクトリック・シタールも、今作の無国籍な現代音楽感を演出するのに大きく貢献。特に(13)「Transparent」は楽曲自体のキャッチーさも相まって、個人的に今作でもっとも推せる1曲だ。
Ma Clément – co-writing, singing
Thom Gill – electric guitar
Logan Kane – electric bass, upright bass
Zach Phillips – co-writing, editing, Hohner Clavinet E7, Yamaha C7 grand piano, Octave-Plateau Voyetra-8, ARP String Ensemble
Daniel Rossi – percussion
André Sacalxot – alto saxophone, flute
Gaspard Sicx – drums
Chris Weisman – Reuben Cox rubber-bridge guitar, Danelectro sitar guitar, strat and Yamaha C7 grand piano (9)