マラケシュからニューオーリンズへ。マフムード・ショウキ新譜
モロッコ出身で現在は米国ニューオーリンズを拠点とするマルチ弦楽器奏者/作曲家マフムード・ショウキ(Mahmoud Chouki)。2024年リリースの『Caravan “From Marrakech To New Orleans”』は、ギターやウードを卓越した技巧で操り、マグレブ(北西アフリカ諸国)の音楽とニューオーリンズで生まれたジャズを融合した独創的な音楽で国際的に称賛される彼の新作だ。
アルバムにはマフムード・ショウキのオリジナルと、ジャズ・スタンダードの再解釈を含む10曲を収録しており、合計45分間のオリエンタル・ジャズの音楽体験を提供する。ショウキ自身が“ニューオーリンズへのラブレター”と呼ぶこの作品には、プロデューサーでありグラミー賞ノミネート経験をもつジェイムソン・ロス1(Jamison Ross)をはじめ、ドラマーのハーリン・ライリー(Herlin Riley)にジェイソン・マルサリス(Jason Marsalis)、クラリネット奏者マイケル・ホワイト(Michael White)、シンガーのジョン・ブッテ(John Boutté)といったニューオーリンズを代表するミュージシャンたちが参加し多彩なコラボレーションを実現。マフムード・ショウキによるギターやウード、ロタールなどの弦楽器によって奏でられる北アフリカや中東、スペインの音楽がニューオーリンズのジャズと交錯し、独特のサウンドを創っている。
(1)「Safar」はマフムード・ショウキを初めて聴く人にとっては衝撃的なオープニングとなるだろう。ここでは彼はクラシックギターを用い、モロッコからジブラルタル海峡2を隔てたスペイン発祥のフラメンコ音楽の影響を受けたギター演奏を披露する。その音色は明るく自信に満ちており、ラテンジャズの陽気さと相まってとてもエキサイティングに響き渡る。後半ではマフムードは楽器をロタールに持ち替え、魅惑的なアラビック・ジャズを展開する。
デューク・エリントン(Duke Ellington, 1899 – 1974)と、エリントン楽団のトロンボーン奏者ファン・ティゾール(Juan Tizol, 1900 – 1984)により作曲されたジャズ・スタンダード(4)「Caravan」は今作を象徴する名演だ。ウードが活躍するアラブ音楽と古風なフォービート・ジャズの場面転換が素晴らしい。
モロッコ生まれ、アメリカでジャズに魅了された弦楽器奏者 Mahmoud Chouki
マフムード・ショウキは1984年モロッコ北西部の都市ケニトラ生まれの作曲家/マルチ楽器奏者。2歳の時に家族と共にアライシュ(ララシュ)に移住した。幼少期から音楽に非凡な才能を示し、8歳でアライシュの音楽院で学び始め、その後首都ラバトの国立音楽院で音楽理論とクラシックギターの訓練を積んだ。
14歳からモロッコ国内で演奏を始め、アラブ首長国連邦で行われた「Young Arab Talent Festival」でモロッコ代表として出演するなど、若くして国際的な舞台に立った。彼の音楽はヨーロッパのクラシックやジャズギターを基盤に、アンダルシア音楽、中東のレヴァント音楽、北アフリカのマグレブ音楽、ラテンアメリカ音楽、アメリカのジャズなど、世界中の多様な影響を融合させた独自のスタイルを特長とする。使用する楽器も多彩で、クラシックギターに加え、ロタール(モロッコ中部アトラス地方の伝統楽器)、ウード、アルジェリアのマンドール、バーラマ・サズ、バンジョーといった弦楽器から、さらにさまざまな打楽器も演奏する。
2015年に初めてアメリカ合衆国のニューオーリンズを訪れた際、現地のジャズシーンに魅了され、短期間の滞在予定が延長され、結果的にこの街に定住することになった。現在、ニューオーリンズのフランス語学校「Lycée Français de la Nouvelle-Orléans」で音楽を教え、ニューオーリンズ美術館(NOMA)で毎月の音楽プログラムのキュレーターを務めている。また、スイス・シエールでの「Rencontre Orient-Occident」の芸術監督として、東西の音楽家が集うアーティスト・レジデンシーを主催し、異文化間の対話を音楽で探求している。
マフムード・ショウキはのキャリアは輝かしい成果に満ちている。2021年のサンダンス映画祭で賞を受賞した映画『Ma Belle, My Beauty』(2021年, フランス)の音楽を手がけ、2020年にはOffBeat Magazineの「Best Emerging Artist」、2022年にはGambit Weeklyの「Best World Artist」に選ばれた。最新作『Caravan “From Marrakech To New Orleans”』(2024年)は、ジャズのスタンダードと自身のオリジナル曲を融合させ、ニューオーリンズの文化的多様性を反映した作品として高い評価を受けている。
Mahmoud Chouki – guitar, oud, loutar, vocal
Jamison Ross – drums, producer
Dr. Michael White – clarinet
Detroit Brooks Sr. – guitar, vocal
Jason Marsalis – vibraphone
Ricardo Pascal – saxophone
Simon Mouchabeck – percussion
Martin Masakowski – bass
John Boutté – vocal