フランスの気鋭音楽家トニー・パエルマン新譜『Wise Animals』
フランスのピアニスト/作曲家トニー・パエルマン(Tony Paeleman)の新譜『Wise Animals』は、この1981年生まれの鍵盤奏者が2021年にベースのジュリアン・エルネ(Julien Herné)とドラムスのステファン・ハチャード(Stéphane Huchard)とともに録音し高い評価を得た『The Fuse』の待望の続編であり、おそらくは彼のキャリアにおいてもピークに達した感のある傑作だ。
本作は“現代のジャズ”の純度の高い結晶と言える。物語性とアーキテクチュアを重視した重厚な作曲、ジャズの醍醐味である即興性やライヴ感に加えて多重録音も活用しポスト・プロダクションにも拘り抜いたサウンド。トニー・パエルマンの音楽は多くの人々の心に訴求できる新鮮で純真な活力に満ちており、アルバムのテーマとも相まって魅力的に響く。
タイトル“賢い動物たち”に集約された今作のテーマは、彼が幼少期から強い関心を寄せていた動物たちについての個人的な物語だ。これほど、タイトルと曲想をあわせて1枚まるまる楽しめるジャズのアルバムはなかなか無い。曲名には様々な動物の名前が冠されているが、それぞれの楽曲にはステレオタイプでチープなイメージの具現は一切なく、驚くべき創造性で彼の“動物観”を表現する。
(2)「Maman Ourse」はフランス語で“母熊”。おどけたようなリズムだが、クマの鳴き声を模したようなシンセが面白い。ゲストで”素手ドラム”の達人ステファン・エドゥアール(Stéphane Edouard)がパーカッションで参加するなど、個性的な1曲となっている。
2:19という短さながら、曲中で様々な表情を見せる(3)「Wild Goose」(ガチョウ)も素晴らしい。トリオのドラマーであるステファン・ハチャードが様々な打楽器も演奏し、アンサンブルは徐々にガチョウたちの群れの賑やかな行進へと発展してゆく。
(5)「Octopus」にはラッパーのミスター・ジェイ・メデイロス(Mr. J. Medeiros)をフィーチュア。90年代の懐かしいジャズ・ヒップホップの匂い。(6)「Elephants」はきっとアジアゾウではなくアフリカゾウだろう。
Tony Paeleman – piano, keyboards, claps
Julien Herné – bass
Stéphane Huchard – drums, percussions (3)
Mr. J. Medeiros – lyrics, voice (5)
Matthis Pascaud – guitar, lapsteel (5, 6, 9, 11)
Stéphane Edouard – percussions (2, 5, 6)