バルセロナの“今”を体現する女性6人組バンド Maruja Limón、虚飾に満ちた世界へ突きつける新作

Maruja Limón - Te Como la Cara

バルセロナの先鋭バンド、マルハ・リモン新譜『Te Como la Cara』

スペイン・バルセロナの女性6人組バンド、マルハ・リモン(Maruja Limón)の新作『Te Como la Cara』。今作は2024年の3月と10月にリリースされた2枚のEP『Te como la cara (A)』『Te como la cara (B)』を統合した完全版という位置付けで、ルンバ・カタルーニャやフラメンコを基調としながらヒップホップやキンキ1文化を取り入れた所謂“バルセロナ・ミクスチャー2”の系譜に連なるアルバムとなっている。

冒頭曲(1)「Míralas」ではルンバ・フラメンカにデンボウ3を掛け合わせた“ルンボウ”を提唱する。激しいラスゲアード4と強烈なリズムが見事に噛み合い、現代らしいフラメンコといった様相。曲名「Míralas」はスペイン語で「彼女たちを見て」という意味で、フラメンコの伝説的歌手ロラ・フローレス(Lola Flores, 1923 – 1995)やアルゼンチン・フォルクローレの歌手メルセデス・ソーサ(Mercedes Sosa, 1935 – 2009)といった音楽史に名を刻む先駆的な女性アーティストたちへのオマージュが込められている。

キンキ・ルンバの(2)「Dime pa qué」では、彼女らは自分よりも他人を魅了することを重視する現代社会のポスチュレオ5(虚栄)を皮肉りつつ、本物の感情や自分らしさを求める姿勢を表現する。

“ポスチュレオ”をテーマに扱う(2)「Dime pa qué」

古典的なスパニッシュ・スケールとレゲエのリズムの融合に導かれる(5)「Como me pongo」では、2000年代以降のバルセロナを代表するシンガーソングライターのムチャチート・ボンボ・インフェルノ(Muchachito Bombo Infierno)をフィーチュア。曲名は「どうやって(気分を)高めるか」という意味で、女性への期待などの社会的規範を軽くあしらい、日常の中で自分を奮い立たせる瞬間について歌う。

(5)「Como me pongo」

(6)「Yo no estoy pa’ esto」から、アルバムは“B面”へと入ってゆく。曲名は「私はこんなことに耐えられない」といったニュアンスで、自己犠牲や我慢を強いられる関係性にNoと言う女性の声を描いている。これは社会に蔓延する女性たちへの“有害な愛情”への拒絶の宣言だ。アルバムの他の曲でもそうだが、ミラ・ゴンサレス(Mila González)のトランペットやビッキー・ブルム(Vicky Blum)のフラメンコ・ギターの演奏が際立つ。

(6)「Yo no estoy pa’ esto」

Maruja Limón 略歴

マルハ・リモンは、スペイン・カタルーニャ州都バルセロナで2014年に結成された女性6人組バンド。現在のメンバーはエステル・ゴンサレス(Esther González, vo)、シェイラ・ケロ(Sheila Quero, vo)、ビッキー・ブルム(Vicky Blum, g)、ミラ・ゴンサレス(Mila González, tr)、カルラ・ゴンサレス(Carla González, b)、エリ・ファブレガス(Eli Fabregas, ds, perc)。

結成以来カタルーニャ・ルンバ、フラメンコ、ラテンリズムを基盤に、ポップスやエレクトロ・ミュージックを融合させた独自のミクスチャー・サウンドで知られている。2018年にデビューアルバム『Más de ti』をリリースし、いくつかの雑誌などで年間ベストアルバムの1枚に選出されるなど大きな注目を集める。続く2019年の『Ante mí』でその人気を確立し、2022年の『Vidas』でさらに進化。ライヴではエネルギッシュなパフォーマンスが特徴で、スペイン国内外で人気を博している。

  1. キンキ(quinqui)…スペイン語で「不良」「チンピラ」を意味する。フランコ独裁政権後(1970年代後半〜80年代)の社会混乱期に現れた若者文化と結びついている。音楽においては伝統的なスペイン音楽にポップやロックの要素が混ざり、粗野で反抗的、そして情熱的なトーンが加わる。 ↩︎
  2. バルセロナ・ミクスチャー…バルセロナで発展した音楽文化で、多様なジャンルや文化が混ざり合う「混血(mixtura)」を特徴とします。1990年代から2000年代にかけて、オホス・デ・ブルッホ(Ojos de Brujo)やマカコ(Macaco)といったバンドがこのスタイルを広め、バルセロナの多文化的なアイデンティティを反映し人気を博した。 ↩︎
  3. デンボウ(dembow)…レゲトンのリディム(リズム)のひとつで、シャバ・ランクス(Shabba Ranks)の曲「Dem Bow」のリズムに由来する。 ↩︎
  4. ラスゲアード(rasgueado)…フラメンコで多用されるギターの奏法。様々なパターンがあるが、一様に弦を「掻き鳴らす」この奏法がフラメンコらしさを強調する。 ↩︎
  5. ポスチュレオ(postureo)…他人に良く見られようとするために虚栄を張ったりする態度を表すスペイン語のスラング。軽い自慢や虚栄心が込められていることが多く、時に皮肉や批判的に使われる。 ↩︎

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