ピアノとファゴットで想い巡らす200年の冬の旅路。クリスチャン・ランダルが贈るシューベルト再解釈

Kristjan Randalu, Martin Kuuskmann - Schubert Voyage

クリスチャン・ランダル&マーティン・クウスクマンによる『冬の旅』

エストニア出身のジャズピアニスト、クリスチャン・ランダル(Kristjan Randalu)と、同じくエストニアのファゴット(バスーン)の名手マーティン・クウスクマン(Martin Kuuskmann)によるデュオ作品『Schubert Voyage』。今作はオーストリアの作曲家フランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797 – 1828)が晩年に作曲した『冬の旅』の再解釈で、シューマンの『詩人の恋』を再解釈したクリスチャン・ランダルの前作『Dichterliebe』に引き続き、彼のクラシック音楽への深い愛情に満ちた作品となっている。

シューベルトの『冬の旅』(作品89、D911)は1827年に作曲された連作歌曲集。ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラー(Wilhelm Müller, 1794 – 1827)の詩集に基づいており、失恋した若者が街を捨ててさすらいの旅を続けていくといった内容で、その背景には産業革命による都市への人口集中が始まったことによる「社会からの疎外」という近代的意識があるといわれる作品だ。

クリスチャン・ランダルとマーティン・クウスクマンはこの24の歌曲の中から14を選び、現代的な解釈を吹き込み再構成。やはり全体的に短調の曲が多く、原曲ではほとんど場合テノール歌手が歌うメロディーのパートをファゴットの重厚な音色で情感豊かに歌い上げてゆく。クリスチャン・ランダルのピアノは即興も多く交え、これも非常に感情的で素晴らしい。

アルバム『Schubert Voyage』のトレーラー。

原曲の作曲から実に200年近い年月を経過しての録音だが、こうしたクラシック音楽の再解釈は本当に面白い。とりわけ本作はそれぞれの時代背景の200年を隔てた驚くべき変化を感じつつも、それでも変わらない音楽の本質のようなものに触れられる気がする。産業革命がおこった18世紀後半から19世紀にかけて生きたシューベルトの時代と、さらに急速に進化しシンギュラリティへと突き進む現代といったそれぞれの時代背景に想いを巡らせながら聴くこの音楽は、どこまでも深く、格別だ。
今作における情感豊かなシューベルトのトーン、そしてジャズの自由度による解釈の拡張は、時間と空間を超えた人類史の重層的な歩みを音に刻み、過去と現在が交錯する瞬間を感じさせる。

略歴

Kristjan Randalu 略歴

クリスチャン・ランダルは1978年エストニア1生まれのピアニスト/作曲家。父親カレ・ランダル(Kalle Randalu, 1956 – ) は著名なピアニスト、妹のリーサ・ランダル(Liisa Randalu, 1986 – )もクラシックのヴィオラ奏者という音楽一家に生まれ育った。
エストニア、ロンドン、ニューヨークでクラシックとジャズを学び、1997年にビベラッハ・ジャズ賞、2002年にモントルー・ジャズ・フェスティバルのソロピアノコンクール優勝、2007年にバーデン・ヴュルテンベルク州ジャズ賞を受賞するなど欧州を代表するピアニストとして知られている。
彼の音楽性はとりわけ、クラシックとジャズの高度な融合として国際的に認知されている。

Martin Kuuskmann 略歴

マーティン・クウスクマンは1971年エストニア・タリン生まれのバスーン(ファゴット)奏者。タリン生まれ。タリン音楽高等学校、マンハッタン音楽学校、イェール音楽学校でファゴットを学んだ。非常に幅広いスタイルにわたる演奏と録音で知られ、世界有数のオーケストラや指揮者の多くと共演し、グラミー賞に3度ノミネートされた名奏者として名高い。

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  1. エストニア共和国(Eesti Vabariik)…ヨーロッパ北東部にある共和制国家。1991年にソビエト連邦から独立を回復した。 ↩︎
Kristjan Randalu, Martin Kuuskmann - Schubert Voyage
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