現代社会の混沌をサウンドに詰め込んだ注目の男女デュオ、Obradovic-Tixier Duo『Jiggled Juggler』

Obradovic-Tixier Duo - Jiggled Juggler

現代社会の複雑性を見事に描くデュオの新譜

クロアチア出身の女性ドラマー/作曲家ラダ・オブラドヴィッチ(Lada Obradovic)とフランス出身の男性ピアニスト/作曲家ダヴィッド・ティクシエ(David Tixier)によるデュオ、オブラドヴィッチ=ティクシエ・デュオ(Obradovic-Tixier Duo)の3枚目のフルレンス・アルバム『Jiggled Juggler』が素晴らしい。彼らの音楽は、ますます複雑になる現代社会がかろうじて保とうとしている秩序らしきものと、過剰なリベラリズムとバターナリズムの衝突によってもたらされる分断と混沌という危機が交錯する時代の空気を見事に捉えている。

クロアチアのアーティスト、イヴァナ・スヴェトリチッチ(Ivana Svjetličić)が描くヴィヴィッドなジャケット・アートはデュオの音楽観を象徴している。このジャケットには大胆な色合いで描かれた曲芸師(ジャグラー)の顔の半分が描かれており、その筆致は粗く力強く躍動的だ。大衆社会は曲芸師を笑うが、こちら側を覗き込む彼の姿が、実は曲芸師が社会の方を嗤っているという実に滑稽な視点の転換に気づかせる仕掛けのようにも思えてくる。

このデュオの音楽性やサウンドは多様で複雑だ。変拍子を随所に取り入れたリズム。ときに叙情的、ときに破壊的な音色と演奏。それぞれの楽曲で映像的な物語性が感じられ、即興重視のジャズにありがちな自己満足ではないアーティスティックな表現力が発揮されている。

冒頭の(1)「And Only the Sky Could See it」は変拍子や音階から来るオリエンタルな感覚と、鋭利な現代ジャズのリズム感覚でいきなり強く惹かれてしまう。鍵盤のダヴィッド・ティクシエはアコースティック・ピアノからシンセサイザー、サウンドエフェクトまで様々な音を効果的に操る。ラダ・オブラドヴィッチのドラミングは軽やかで、程よいミュートによってドラムセットすべての音色がとてつもなく洗練されている。

(3)「B for Angel」も彼らの音楽性の魅力を象徴する楽曲だ。大胆さと繊細さが極度の緊張感をもって入り乱れるデュオの呼吸。生きた音楽の素晴らしさを堪能できるMVも必見だ。

(3)「B for Angel」

デュオの二人はそれぞれ個性が際立ち、そして最高の相性を感じさせる演奏がつづく。
ドラムスのラダ・オブラドヴィッチは非常にソリッドかつポリリズミック。鍵盤のダヴィッド・ティクシエは多彩なスケールを習熟し、プログレッシヴとリリカルのバランスが絶妙。二人の演奏はともに刺激しあい、ジャズの不確実性がもたらす揺らぎの魅力に溢れている。

(7)「Watch Your Step」

Obradovic-Tixier Duo プロフィール

オブラドヴィッチ=ティクシエ・デュオは、クロアチア出身のラダ・オブラドヴィッチとフランス出身のダヴィッド・ティクシエによる現代ジャズプロジェクト。二人は2012年にスイスのローザンヌ音楽大学で出会い、互いの音楽的感性が共鳴してデュオを結成した。

ジャズを基盤に、ポップ、エレクトロニカ、トリップホップ、プログレッシヴなどの要素を独自に融合させたサウンドが特徴で、伝統的なジャズの枠を超えた現代的な音楽を追求している。
2017年にデビューEP『EP 2017』をリリースし、ヨーロッパのジャズシーンで注目を集めた。2019年には「La Défense Jazz Festival」でソロイスト賞を受賞し、同年「Jazz à Vienne」のRéZZo Focal prizeを獲得するなど、国際的な評価を確立。2020年の『The Boiling Stories of a Smoking Kettle』、2022年の『A Piece of Yesterday』の2枚のアルバムでは、物語性と視覚的要素を強調。2025年にリリースされた最新作『Jiggled Juggler』では、モーグ・シンセサイザーやグロッケンシュピールも用いた多彩な音色で現代社会のテーマを描いた。

ライヴパフォーマンスは視覚的かつエネルギッシュで、ヨーロッパやアジアのフェスティバルで“ジャズの革新者”として高い評価を受けている。
二人は活動の軸をデュオに置きつつ、それぞれのソロ・プロジェクトでも優れた作品を発表している。

2024年7月にフランスで開催されたジャズ・フェスティバル、Jazz à Porquerolles での演奏の模様

David Tixier – piano, keyboards, effects
Lada Obradović – drums, glockenspiel, voice, percussion, bell

Obradovic-Tixier Duo - Jiggled Juggler
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