ベルギーの多文化ジャズを象徴するトリオによる新作
ベナン、ベルギー、イタリアとそれぞれ異なるルーツを持つ3人によるマコンド・トリオ(Macondo Trio)。ガブリエル・ガルシア=マルケスが『百年の孤独』で描いた魔法のような町の名前に因むトリオは、ヨルバ語で「喜びを見つけた」という意味を冠する新作『Morayò』で、ジャズやアフリカのリズム、アラブ文化が共生する奥行きのある音楽観を提示している。
トリオはベルギー出身のアルトサックス奏者シルヴァン・ドゥベシュー(Sylvain Debaisieux)、2017年にアフリカの最優秀ドラマーを受賞したベナン出身のアンジェロ・ムスタファ(Angelo Moustapha)、そして2018年にトゥーツ・シールマンス賞受賞のイタリア出身ダブルベース奏者フェデリコ・ストッキ(Federico Stocchi)という多国籍の構成。今作ではゲストに中東の太鼓を専門とするベルギーの打楽器奏者シモン・ルルー(Simon Leleux)やチュニジア出身のピアニストのワジディ・リアヒ(Wajdi Riahi)、フランスのトランペット奏者ピエール=アントワン・サヴォヤ(Pierre-Antoine Savoyat)、さらにアラビア語で歌うチュニジアの歌手ガーリア・ベナリ(Ghalia Benali)が参加し、トラックごとに異なる色彩を与える。
収録曲はパレスチナ系難民として生まれ育った作家イブラヒム・ナスララ(Ibrahim Nasrallah)による(7)「Twenty Rivers」を除き、トリオの3人によるオリジナル。その音楽的な幅は広く、冒頭に述べたようにヨーロッパのジャズ、マグレブの伝統音楽、讃美歌など多くの要素が混在し複雑な模様を描いている。多くの楽曲で主役となるのはシルヴァン・ドゥベシューの情熱的なアルトサックスと、アンジェロ・ムスタファの繊細かつ現代的なリズムだ。
多様な文化的背景をもったミュージシャンたちによる相互のリスペクトを通じて生まれた“魔法のような音楽”。時間と空間の感覚を狂わせるような得難い体験に誘われる好盤だ。
Macondo Trio :
Sylvain Debaisieux – saxophone
Federico Stocchi – double bass
Angelo Moustapha – drums, percussion
Guests :
Simon Leleux – percussion
Wajdi Riahi – piano
Pierre-Antoine Savoyat – trumpet
Ghalia Benali – vocals