トリロク・グルトゥ新譜『Mirror』はアルケ四重奏との再共演
50年以上にわたりインドと西洋の音楽の架け橋であり続けるインド出身の打楽器奏者/作曲家トリロク・グルトゥ(Trilok Gurtu)が、新譜『Mirror』をリリースした。今作は2007年作『Arkeology』以来となる、イタリアのアルケ・ストリング・カルテット(Arke String Quartet)との再共演で、インディアン・ジャズ・フュージョンというよりもインド音楽の要素の強いポスト・クラシカル作品といった印象を受ける。
収録曲もトリロク・グルトゥ作のものと、ストリングカルテットのメンバーによる作曲が半々ほど。
(1)「Peace Is Not Peaceful」や(5)「Five Illusions」などトリロクの楽曲は旋律やリズムにもインド色やフュージョン色が強いが、(6)「The Cathedral」などカルテットのメンバーの作によるものはイタリア映画を想起させる美しいアンサンブルを軸に、トリロクがタブラなどでリズムを個性的に彩るというアプローチが面白い。力強いインディアン・ファンク(9)「Scirocco」では彼の代名詞ともいえるウォーター・バケツ(water buckets)の演奏も披露し、ドラムス/パーカッションの革新者たる彼の真髄が発揮されている。
今作はトリロク・グルトゥのキャリアを通じて一貫している多文化的なアプローチをさらに深化させたものだ。インドの伝統音楽に深く根差しながら、ジャズやファンク、西洋の古典音楽、アフリカの伝統的なリズムなど様々な文化的要素が見事に調和したリズムが素晴らしい。
トリロクの精神的な師は、かつて彼にこう言ったという「あなたは神の鏡だ」。この気づきが、分断ではなく融合を志向する音楽を創るきっかけとなった。今作のサウンドは、その精神性が彼の中でますます深く洗練され、極みに達していることが感じ取れる。
Trilok Gurtu 略歴
トリロク・グルトゥは、1951年インド・ムンバイ生まれのマルチ打楽器奏者/作曲家。伝統的なインド音楽と西洋のジャズを融合させた独自のスタイルで国際的に評価されている。バラモンの家系で、父親はシタール奏者、母親はインド古典の歌手であり、彼自身も6歳でタブラを始め南インドのリズム技法であるコンコールを習得するなど幼少期から音楽に親しんだ。
1970年代にジャズへの関心を高め、西洋のドラムキットを演奏し始める。1970年代初頭、欧州に移住し本格的に音楽活動を開始。1973年にドン・チェリーのグループに参加し、ジャズシーンで注目を集めると、その後ジョン・マクラフリン、ジョー・ザヴィヌル、ヤン・ガルバレク、パット・メセニーらと共演。1980年代には自身のバンド、トリロク・グルトゥ・グループを結成し、アルバム『Usfret』(1988年)で独自の音楽性を確立。タブラ、ドラムセットに加え、バケツや剣など非伝統的な楽器を用いる革新的なアプローチも話題となった。タブラの巨匠ザキール・フセインは、「トリロク・グルトゥがタブラだけを演奏していたとしたら世界で最高のタブラ奏者だった」と述べている。
1990年代以降、『Living Magic』(1991年)、『Crazy Saints』(1993年)、『The Glimpse』(1997年)などのアルバムをリリース。2007年の『Arkeology』ではアルケ・ストリング・カルテットとコラボレーション。2025年4月25日には同カルテットと再共演したアルバム『Mirror』をリリースし、インド音楽、ジャズ、アフリカ、ブラジルの要素を融合させたスピリチュアルな作品として評価された。
トリロク・グルトゥは半世紀におよぶキャリアのなかで、文化的境界を越えた音楽の架け橋としての地位を築いてきた。これまでにグラミー賞ノミネートやBBCワールドミュージック賞受賞など数々の栄誉を受ける。ライヴ・パフォーマンスでも複雑なリズムと即興性を駆使し、現代のワールドミュージックにおける重要人物として影響力を発揮し続けている。
Trilok Gurtu – drums, percussion, vocals
Arke String Quartet :
Carlo Cantini – violin, melodica
Valentino Corvino – violin
Sandro Di Paolo – viola
Stefano Dall’Ora – double bass, electric bass