ショパン・プロジェクトに続く第2弾『ブラームス・プロジェクト』
前作『The Chopin Project』に続く、カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)& ジャン=ポール・ブロードベック(Jean-Paul Brodbeck)によるクラシック巨匠の遺産に探訪するプロジェクトの第二弾がリリースされた。今回はドイツの作曲家ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833 – 1897)。前作と同じくルーカス・トラクセル(Lukas Traxel, b)とホルヘ・ロッシー(Jorge Rossy, ds)を擁したジャズ・カルテットで、「ハンガリー舞曲」「子守歌」といった楽曲が収められている。
アルバム『The Brahms Project』に収録されたブラームス原曲の計10曲は、すべてスイスのピアニストであるジャン=ポール・ブロードベックが編曲を手がけている。有名な(1)「Hungarian Dance No.1」(ハンガリー舞曲第1番)や(8)「Hungarian Dance No.5」(ハンガリー舞曲第5番)、ジェーン・バーキンによるカヴァー「Baby Alone in Babylone」でも知られる(7)「Symphony No.3 – III. Poco allegretto」(交響曲第3番 第3楽章 ポコ・アレグレット)といったブラームスの素朴で民俗的なエッセンスを大事にしつつ、とりわけ現代を代表するギタリストであるカート・ローゼンウィンケルによる卓越したソロなどを通じて現代的に再解釈。クラシックの構造美とジャズの感情的な即興が調和し、ブラームスのロマンティックな情感に新たな生命を吹き込む。
よくある”クラシックのジャズ・アレンジ”といった安直な企画モノとは一線を画すことは明らかだ。ブラームスの名曲を素材としているものの、細部まで緻密に織り込まれた丁寧な編曲と、即興の中で起こる予想外の化学反応は紛うことなき現代最先端のジャズで、ジャズ・ギターのイノベーターであるカート・ローゼンウィンケルのこれまでの歩みを逆行させるものではない。フランスの音楽メディア『Paris Move』は本作について「ブラームスにこのような形で挑むには、完全な狂気か、並外れたインスピレーションのどちらかが必要だ」と評しているが、事実この作品に潜んでいるのは自在に音を操る21世紀の芸術家たちの灼熱の熱気と、そこから生まれる爆発的な創造力に他ならない。
(1)「Hungarian Dance No.1」のテーマ部分でのカートのギターは最高だ。冒険的なハーモナイズの連続は、もしも19世紀に生きたブラームスが聴いたならそのセンスをまるで理解できないか、あるいは激しい嫉妬により発狂していただろう。その後の畳み掛けるようなソロも含め、現代ジャズギターの“帝王”たる所以が凝縮されたトラックとなっている。
ふたつの間奏曲(Intermezzo)と、ブラームスの成熟期に書かれたピアノのための『2つのラプソディ』第1番(4)「Rhapsody, Op. 79, No.1」(狂詩曲 作品79の1)を経て、束の間の休息として機能する有名な子守歌(5)「Wiegenlied」までがアルバムの前半。カート・ローゼンウィンケルは「ブラームスは人生全体の感情を歌っている。愛する人への愛、母親への愛、人生への悲しみ、そしてその美しさとほろ苦さ」と『Jazz Times』に語り、今作では作曲家からの大きな抱擁を受けている感覚になったと振り返っている。
Kurt Rosenwinkel – guitar
Jean-Paul Brodbeck – piano
Lukas Traxel – double bass
Jorge Rossy – drums