イベリアの奇跡のデュオ。シルビア・ペレス・クルス&サルヴァドール・ソブラル 初デュオ作

Sílvia & Salvador

シルビア・ペレス・クルス&サルヴァドール・ソブラル 初のデュオ作

欧州を代表する音楽家の二人──カタルーニャのシルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)と、ポルトガルのサルヴァドール・ソブラル(Salvador Sobral)による初のデュオ・アルバム『Sílvia & Salvador』がリリースされた。収録は全曲がドラムスもベースもいない編成で、アコースティックのギターやマンドリン、チェロといった弦楽器を中心に、美しいハーモニーを聴かせるヴォーカルの二人にぴったりと寄り添うオーガニックな演奏がどこまでも魅力的だ。

楽曲は二人のオリジナルの他、彼らが親しい作曲家たちが楽曲を提供している。ウルグアイのホルへ・ドレクスレル(Jorge Drexler)、ポルトガルのルイーザ・ソブラル(Luísa Sobral, サルヴァドールの姉)、ブラジルのドラ・モレレンバウム(Dora Morelenbaum)、スペインのラウ・ノア(Lau Noah)、ハビエル・ガリアナ・デ・ラ・ロサ(Javier Galiana de la Rosa)、マルコ・メスキーダ(Marco Mezquida)にダビド・モンティエル(David Montiel)、メキシコのカルロス・モントフォート(Carlos Montfort)、そしてフランスのジェナ・ティアム(Jenna Thiam)という多様ながらひとつの方向性を持った豪華な作家陣による楽曲はどれも深く美しい。歌詞の言語もスペイン語、カタルーニャ語、ポルトガル語、フランス語、英語と多彩で、国際社会の分断よりも融和を願う彼らの想いを象徴している。

(2)「Ben poca cosa tens」

スタジオ・ライヴ録音の編集は最低限に抑えられ、親密な音楽の雰囲気を生々しく捉えている。
ファド、シャンソン、ランチェーラ、MPB、地中海音楽、ジャズ、フォーク、ポップなど、多様な音楽的要素がそこかしこに散りばめられている。

シルビア・ペレス・クルス作曲の(2)「Ben poca cosa tens」はカタルーニャの詩人ミケル・マルティ・イ・ポル(Miquel Martí i Pol, 1929 – 2003)の詩にインスパイアされたもので、商業的な枠組みを超えた“ラジオ向けではないアンチシングル”として紹介されており、ゆっくりと燃えるような感情的なサウンドが印象的だ。

(4)「Hoje já não é tarde」はサルヴァドールの実姉でシンガーソングライターのルイーザ・ソブラルの作詞作曲。ファドの叙情を湛えた曲調と、二人のヴォーカルの至極の掛け合いが感傷的だ。

(4)「Hoje já não é tarde」

ラストの(11)「Tempus Fugit (Plor per Palestina)」は今作にピアニストとして参加しているマルコ・メスキーダの作曲によるもので、「時間」をテーマにしたインストゥルメンタル曲という依頼を起点に、彼がパレスチナ問題に捧げるアイデアとして提案したもの。ピアノの伴奏と、シルビアのサルヴァドールによるハーモニーという最小限のアンサンブルだが、アルバムのテーマである“感情的な旅”と社会的メッセージを結びつける象徴的な楽曲として強く印象的な余韻を残す。

Sílvia Pérez Cruz プロフィール

シルビア・ペレス・クルスは1983年スペイン・カタルーニャ州生まれ。母親は彼女にサックスとピアノの演奏、ダンスと彫刻を教え、父親は彼女にギターを教えた。カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)ではピアノとサックスを学び、ジャズ・ヴォーカルで学位を取得。

2004年に女性4人でフラメンコ・ユニット、ラス・ミガス(Las Migas)を結成しヴォーカリストを担当。グループはその高い芸術性で Instituto de Juventud による「最高のフラメンコ・グループ」の賞を受賞するなどすぐに話題となり、シルビアも同国を代表する歌手として認知されるに至った。

2011年にソロ活動に専念するためラス・ミガスを脱退し、コントラバス奏者のハビエル・コリーナ(Javier Colina)との共同名義でアルバム『En La Imaginación』(2011年)を発表。
2018年には日本とスペインの国交樹立150周年を記念した日本企画のベスト盤も発売され、同年に初来日しブルーノート東京で公演を行った。

Salvador Sobral プロフィール

サルヴァドール・ソブラルは1989年ポルトガル・リスボン生まれの歌手。2009年、イギリス発のオーディション番組『ポップアイドル』のポルトガル版にあたるテレビ番組『Ídolos』の第3シーズンに出演しファイナリストとなり新世代のシンガーとして注目された。

2016年にデビューアルバム『Excuse Me』をリリース。ユーロビジョン・ソングコンテスト2017のポルトガル代表を決める国内選考にて姉ルイーザ・ソブラルが作詞作曲した楽曲「Amar pelos dois」を歌い、優勝。 ポルトガル代表として同コンテストに出場し、史上最高得点となる758点で優勝を果たした。ユーロビジョン・ソングコンテストは英語のアップテンポの曲が有利とされていたが、ポルトガル語のスローバラードであるこの感動的な楽曲は“従来の常識を覆す”と称えられた。授賞式では「内容のほとんどない、使い捨ての無意味な音楽が蔓延するこの世界で、これは意味のある音楽を作っているすべての人の勝利だ。音楽は花火大会ではない。音楽は感情なんだ。音楽を取り戻そう。それが本当に大切なことだ」とスピーチし多くの共感を呼んだ。

Sílvia Pérez Cruz – vocals, acoustic guitar, marimba
Salvador Sobral – vocals, piano

Sebastià Gris – acoustic guitar, banjo, mandolin
Marta Roma – cello
Darío Barroso – guitars, backing vocals
Marco Mezquida – piano
Juan R. Berbín – percussion, sound effects

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