音符が乱れ飛ぶ予想外のトリオ、BEATrio
予想外の組み合わせのトリオが登場した。これだからジャズは面白い!
今作『BEATrio』は、米国のバンジョー奏者ベラ・フレック(Béla Fleck)、コロンビア出身のアルパ奏者エドマール・カスタネーダ(Edmar Castañeda)、そしてメキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェス(Antonio Sánchez)の3人による野心的なプロジェクトだ。ブルーグラスやラテンの影響を強く受けた熱狂的なジャズは、これ以上ないくらいの楽しい音楽体験になる。
トリオは2024年に始動し、ニューヨークのブルーノートでのレジデンシー公演でそのありそうでなかったサウンドを磨いた。ベラ・フレックとエドマール・カスタネーダは2019年から度々共演してきたため、音響だけに注目すれば比較的特徴の似ている互いの楽器について知り尽くし、それぞれの楽器の相乗効果を狙ったアレンジを模索してきたようだ。(1)「Archipelago」や(5)「Cloak and Dagger」といった二人の共作曲はアルパとバンジョーの緻密な掛け合いもあり、その模索の成果を感じることができる。
この二人の弦楽器奏者に、非の打ちどころのないリズムの彩りを加えるアントニオ・サンチェスも素晴らしい。パット・メシーニ(Pat Metheny)のバンドのキーマンとしても知られる彼の、多彩で“柔”の側面の強い変幻自在のドラミングはアンサンブルの印象的なアクセントとして機能し、楽曲の訴求力を補っている。
本稿のタイトルが象徴するように演奏は相当に技巧的だが、同時に生々しく、温かい人間の感情の機微が表れている。ベラ・フレックは今作について「正しいことも間違ったこともすべて起こっていた」とその混沌を表現したが、伝統的な音楽に根差しつつその表現を拡張しようする未来志向のアルバムだと感じた。
Béla Fleck – banjo
Edmar Castañeda – harp
Antonio Sánchez – drums