ソダーデとサウダーヂの交叉点。ナンシー・ヴィエイラ&フレッヂ・マルチンス『Esperanca』

Nancy Vieira and Fred Martins - Esperanca

カーボベルデとブラジルのデュオによる『Esperanca』(希望)

カーボベルデ出身ポルトガル在住の歌手ナンシー・ヴィエイラ(Nancy Vieira)と、ブラジル・リオデジャネイロ出身ポルトガル在住のSSWフレッヂ・マルチンス(Fred Martins)のデュオ作『Esperança』がリリースされた。基本的にギターと歌のみという最小限の編成で、カーボベルデの“ソダーデ”と、ブラジルの“サウダーヂ”(いずれも日本語では“郷愁”が近しい言葉とされる)が交叉する、普遍的で美しいアルバムだ。

アルバムは日本のリスペクトレコード(東京都港区)からのリリースで、世界に先駆けて日本で先行発売されている。ナンシー・ヴィエイラとフレッヂ・マルチンスがポルトガルで出会い、2013年に二人が初めて出会って以降、10数年におよぶ断続的な交流と共演を経て制作されたもので、カーボベルデとブラジルという同じルゾフォニア(ポルトガル語を公用語とする国家)の共通項を探るような文脈が感じられる。

(1)「Nao sou daqui」(ここではないどこかで)はモザンビーク生まれのポルトガルの歌手アメリア・ムジェ(Amélia Muge, 1952 – )の曲のカヴァー。フレッヂ・マルチンスのグルーヴィーなギターの上で二人の声が踊る、ソダーデ/サウダーヂに溢れた素晴らしいトラックだ。

(3)「Saiko Dayo1」(最高だよ!)はグレゴリオ・ゴンサルヴェス(Gregório Gonçalves)作の曲で、カーボベルデの港に寄港した日本のマグロ漁船2の乗組員と現地住民との交流によって「最高だよ」という日本語が伝わったことで生まれた曲。かつてカーボベルデを代表する歌手セザリア・エヴォラ3(Cesária Évora, 1941 – 2011)が歌っていたことでも知られ、地球を半周に相当する日本とカーボベルデの意外な繋がりに気付かされる曲。

(3)「Saiko Dayo」

アルバムのタイトルである『Esperança」、つまり“希望”が今作の揺るぎないテーマだ。
「私たちは、この世界で、この時代に何が起きているのかを心に留め、選曲しました」アーティストはこう語る
「あまりにも多くの権力が少数の手に渡り、大きな不平等が蔓延し、あまりにも多くの命が無駄に失われています。だからこそ、これらの曲を通して、思いやり、共感、共通の生命感、連帯感、そして尊敬が、この世界に存在することができるということを、改めて皆さんに思い出していただきたいのです」
「なぜなら、すべての根底には愛があるからです。これらは同じ精神的な空間、成長を求める姿勢を共有する友人たちによる曲です。互いの利益のために、そして共通の利益のために響く詩なのです。」

アルバムの各楽曲の詳細な説明は、リスペクトレコードの作品紹介ページに掲載されている。

Nancy Vieira – vocal
Fred Martins – guitar, vocal

  1. Saiko Dayo…原曲のタイトルの綴りは「Sayko Dayo」。歌詞ははるばる日本からやってきた漁師たちを歓迎する明るい内容で、セザリア・エヴォラによる歌唱は2008年にリリースされた彼女の初期録音集『Radio Mindelo – Early Recordings』に収録されている。 ↩︎
  2. 日本のマグロ漁船…カーボベルデはかつて日本のマグロ漁船の重要な寄港地であり、特に1960年代から1970年代にかけて、多くの日本のマグロ漁船がカーボベルデのサン・ヴィセンテ島北部のミンデロ港を拠点にしていた。この交流の中で、カーボベルデと日本との間には文化的な繋がりも生まれた。 ↩︎
  3. セザリア・エヴォラ(Cesária Évora)…カーボベルデを代表するモルナの歌手。2003年にアルバム『Voz D’Amor』でグラミー賞の最優秀コンテンポラリー・ワールドミュージック・アルバム賞を受賞した。 ↩︎

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