大洋を吹き、人々の営みを運ぶ風。現代的モルナの歌姫ナンシー・ヴィエイラ 新譜『Gente』

Nancy Vieira - Gente

カーボベルデを代表する歌手ナンシー・ヴィエイラの新作

カーボベルデの島々を囲う大洋のように優しく深い歌声が魅力的な歌手ナンシー・ヴィエイラ(Nancy Vieira)。彼女の新作『Gente』(人々)は、カーボベルデの大衆音楽であるモルナを軸に、ブラジルのサンバ、ポルトガルのファド、カリブ海の音楽やジャズを混ぜ熟成させたような極上の滋味深い音楽に仕上がっている。「カーボベルデってどこ?モルナってどんな音楽?」…そういう方にこそ、ぜひ聴いてもらいたい。そして世界にはこんな素敵な音楽があるのだと知ってほしいと思う。

モルナ(morna)とは2拍子または4拍子のカーボベルデの大衆的な音楽で、多くはギターやカヴァキーニョ、パーカッション、ときにはアコーディオンやクラリネット、ヴァイオリンなどを伴って演奏され、独特の気怠さや哀愁感の雰囲気が魅力的だ。歌詞はカーボベルデ独自の混合言語(カーボベルデ・クレオール語)で歌われる。世界的には歌手セザリア・エヴォラ(Cesária Évora, 1941 – 2011)によって広く知られるようになったジャンルでもある。

今作ではもっとも典型的なモルナは(4)「Amor」で、これはセザリア・エヴォラの名曲「Sodade」「Papa Joachin Paris」を彷彿させるほど。

(1)「Sol Di Nha Vida」のようなヨーロッパのニュアンスが混ざり込んだ楽曲もとても魅力的だ。楽曲構成はプリミティヴだがそれ故の美しさがあり、2本のガットギターとシェイカーが刻むリズム、アコーディオンのオブリガートやソロも素晴らしく、ナンシー・ヴィエイラの歌を際立たせる。

(1)「Sol Di Nha Vida」

キューバ音楽からの影響は(2)「Singa」などに見られる。この曲にはギニアビサウの伝説的音楽家ジョゼ・カルロス・シュワルツ(José Carlos Schwarz)の息子であるシンガー、レムナ・シュワルツ(Remna Schwarz)が参加。

(10)「Fado Crioulo」はブラジル・リオデジャネイロのSSWフレッヂ・マルチンス(Fred Martins)の作詞作曲で、彼自身もヴォーカルでゲスト参加。ゆったりと心地よいリズムで夢想的な情感が素晴らしい。

Nancy Vieira プロフィール

ナンシー・ヴィエイラは1975年にギニアビサウの首都ビサウでカーボベルデ人の両親のもとに生まれた。幼少期にカーボベルデに移住し、14歳のときに家族でリスボンに移住している。彼女が生まれた1975年はカーボベルデがポルトガル領から独立(その前年にはギニアビサウもポルトガル領から独立している)した年であり、独立に際してはギニアビサウと連邦を形成する計画があったが、1980年にギニアビサウで発生したクーデターによって計画は頓挫し現在に至っている。

カーボベルデの伝統的なリズムと、特にブラジルやカリブ海の影響を取り入れた国際的な影響が融合した音楽スタイルを特徴とし、1995年にデビューアルバム「Nôs Raça」を発表。以降複数のアルバムをリリースしており、代表作に『Segred』(2004年)、マヌエル・パウロ(Manuel Paulo)と共作の『Pássaro Cego』(2009年)などがある。

ポルトガル、カーボベルデ以外にも、イギリス、オランダ、アメリカ、アンゴラなどで公演を行っており、カーボベルデを代表する音楽文化の継承者として知られている。

(3)「Nôve Kretxêu」

Nancy Vieira – lead and backing vocals
Vaiss (Osvaldo Dias) – whistle, semi-acoustic bass, cavaquinho, acoustic guitar, viola da terra, backing vocals
Jorge Cervantes – accordion, electric bass, charango, clave, acoustic guitars, electric guitar, backing vocals
Gustavo Nunes – clarinet
Débora Paris – backing vocals
Yura Silva – backing vocals
Danilo Lopes – backing vocals
David Pessoa – backing vocals
Carla Correia – backing vocals
Luís Firmino – backing vocals
Mário Marta – backing vocals
Laura Oliveira – backing vocals
Luciano Maia – accordion
Olmo Marín – acoustic guitar, viola da terra, cavaquinho; Iúri Oliveira – congas, rebolo (sound similar to surdo), ferrinho, udu, sound effects, cajon, clave, congas, cowbell, dikanza (sound similar to reco-reco), shaker
Remna – lead vocals
Luis Firmino – acoustic guitar
Henrique Silva – electric guitar, percussion, synthesizers
Danilo Lopes – electric guitars
David Pessoa – electric guitars
João Gomes – keyboards
Francisco Rebelo – electric bass
Edu Mundo – drums
Mário Lúcio Sousa – lead vocals
António Zambujo – lead vocals
Chullage – spoken word
Fred Martins – acoustic guitar
Miroca Paris – Peruvian cajon, shaker, brushes
Paulo Flores – lead vocals
Texas – guitars
Amélia Muge – lead vocals
Denys Stetsenko – violin

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