深淵な哲学と精神性を孕んだペドロ・イアコ最新作『Sangria』──現代ブラジル音楽芸術の重要作

Pedro Iaco - Sangria

SSWペドロ・イアコ、恐ろしいほどの表現力で魅せる最新作

これはとんでもない傑作だ。
2017年にジョヴァンニ・イアシ(Giovanni Iasi)とのデュオでデビューし、称賛を浴びたブラジルのSSW/ギタリストのペドロ・イアコ(Pedro Iaco)は、2025年の新作『Sangria』で、単なるエンターテインメントとしての音楽に留まらない哲学や精神性を備えた限りなく美しい世界観を見せ、彼のアーティストとしての真髄を深く掘り下げている。

ペドロ・イアコ曰く“最も深い感情”を音楽で表現する試みだという今作には、愛、死、自然、祖先、終末といったテーマが織り交ぜられている。アルバムに収録された13の楽曲はどれも素晴らしい上に、実に多様だ。ペドロ・イアコ自身の卓越した7弦ギターと豊かな表現力を持った歌を表現の中心に据え、いくつかの楽曲では新しい表現にも挑戦。多くの曲で素晴らしい才能たちがゲストとしてフィーチュアされており、その多様性に貢献している。

ペドロ・イアコの新作『Sangria』のEPK

(1)「Sangria」、(6)「Pavane」などの数曲で参加する弦楽カルテットアンサンブルSP(Ensemble SP)や、(7)「Alma de Choro」でフィーチュアされている、驚異的にアクロバティックな「Tico Tico no Fubá」の演奏などで知られるミナスのギター・デュオ、デュオ・シケイラ・リマ(Duo Siqueira Lima)、(12)「Sol do Meio-Dia」に参加するヤマンドゥ・コスタの妻でありクラシック・ギタリストのエロヂー・ボウニー(Elodie Bouny)といったゲストは特に、今作の室内楽的アプローチを象徴している。

(5)「Moonvow (The Wind Blows)」に参加するハンズィ・キアシュ(Hansi Kürsch)とマーカス・ズィーペン(Marcus Siepen)はドイツのメタルバンド、ブラインド・ガーディアン(Blind Guardian)のメンバーで、この曲でのヴォーカル表現にもメタルの要素が取り入れられているが、ガットギターの伴奏に乗せられるその歌はアルバムの世界観を壊すものではなく、むしろメタルとクラシックの親和性を強調するものとして機能している。

(8)「Valsa do Apocalipse」と(13)「O Vôo do Espírito Livre」でフィーチュアされたブラジルを代表するピアニスト、アンドレ・メマーリ(André Mehmari)の参加も特筆すべきだ。アンドレ・メマーリはピアノではなくチェンバロ(ハープシコード)を弾いており、バロック時代の響きに現代ジャズの即興性を加えた時空を超える演奏で貢献。前者の曲ではギニアビサウ出身のムー・ンバナ(Mû Mbana)や、合唱団コーロ・リーリコ(Coro Lírico)の参加によりペドロ・イアコの深淵を感じさせる壮大なステージが繰り広げられる。

(8)「Valsa do Apocalipse」

ブラジルらしい、といえば(10)「Galope em Pé de Vento」だろう。ここには打楽器奏者のゲゲ・メデイロス(Guegué Medeiros)が参加し、ノルデスチ音楽の躍動感のあるリズムを基調としつつ、高度に洗練され編曲を楽しむことができる。

(2)「Vênus」。ハープ奏者のリウバ・クレヴツォーヴァ(Liuba Klevtsova)と、シンガーのルイーザ・ラセルダ(Luisa Lacerda)による美しい共演。

イアコという名前は、ギリシャ語の「ἱακχή」(儀式的な“恍惚の叫び”)に由来しているという。
彼はこの言葉について集団の魂を表現するものと説明しており、このアルバムでもその精神を感じることができる。

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