魅惑的なプログレ・ジャズを展開するシャロン・マンスール・トリオ
アルバムの1曲目、最初の1音からリスナーの心を強く掴む作品は、そうそう多くはない。そしてそうした作品は、ほとんどが「傑作」「名盤」と呼ばれる類のものだ。
名門ACTレーベルよりリリースされたイラク系イスラエル人鍵盤奏者、シャロン・マンスール(Sharon Mansur)のトリオでのデビュー・アルバム『Trigger』はまさにそれに当てはまる作品だ。ピアノトリオの作品だが、メタルやプログレ、さらに中東音楽からの強い影響を感じさせるそのサウンドはとてつもなく鮮烈で、この女性ピアニストへの興味を掻き立てる。
トリオは現代イスラエルジャズを代表するピアノトリオ、シャローシュ(Shalosh)のメンバーでもあるベース奏者のダヴィド・ミハエリ(David Michaeli)と、同じくイスラエルジャズ新世代で注目されるドラマーのダヴィド・シルキス(David Sirkis)との編成。シャロン・マンスールはグランドピアノとシンセサイザーを自在に使い分けるスタイルで、その流麗で圧倒的な技巧と感性に驚かされる。ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)や上原ひろみにも通じるプログレッシヴ・ジャズだが、彼女のシンセによるソロではピッチベンダーを効果的に使用しアラブ音楽特有の微分音も表現に取り入れており独創的な魅力を発揮。これが、たまらなくかっこいい。
収録曲はすべてシャロン・マンスールのオリジナル。イスラエル・ジャズの真髄ともいえる特徴的な変拍子、プログレの音楽的複雑性、クラシックやメタルのダイナミズム、高度な即興性など、彼女の多様な背景から来る濃密な音楽体験ができる、最高の一枚だ。
Sharon Mansur 略歴
シャロン・マンスールはイスラエル生まれの鍵盤奏者/作曲家。6歳の時に『ライオン・キング』のオーケストラ音楽に衝撃を受け、音楽への情熱が芽生えた。8歳からクラシックピアノを学び、ショパンやラフマニノフに強く影響を受けた。
16歳で初めてキーボードを購入し、地元のメタルバンドに参加。兵役除隊後、リモン音楽学校でジャズを学び始め、エルサレム音楽アカデミーで学位を取得している。
2021年、シャロンはエレクトロニック・レーベル「キャメルライダーズ・レコード」(Camel Riders Records)からデビューアルバム『Cairo Dreaming』をリリースしました。同時に、イスラエルのインディレーベル「カメア」(Kamea)から、ピアノソロのためのオリジナル楽曲集『The Gap』を
リリース。2022年には、キャメルライダーズから2枚目のEP『Purple Shades』をリリースした。
父親がイラク出身であり、中東の音楽、特にアラブの旋律や変拍子が彼女の音楽的アイデンティティに深く根付いている。
Sharon Mansur – piano, synthesizer
David Michaeli – bass
David Sirkis – drums