時間の経過とともに変化する記憶、郷愁、内省の物語。ヒライ・ゴヴリーン新譜『Every Other Now』

Hillai Govreen - Every Other Now

サックス/クラリネット奏者ヒライ・ゴヴリーン『Every Other Now』

ニューヨークを拠点に活動するイスラエル出身のクラリネット/サックス奏者のヒライ・ゴヴリーン(Hillai Govreen)の第2作目となる新譜『Every Other Now』。同郷のベーシストであり共同プロデューサーのベン・メイナーズ(Ben Meigners)との密接なコラボレーションを通じて制作された意欲作で、彼女は主にテナーサックスを演奏し、欧州のジャズに通ずる叙情的なオリジナルをメインにその豊かな感性を披露している。

アルバムは記憶、ノスタルジー、時間の流動性、喪失と内省をテーマとし、スタジオでのライヴ録音ならではの生々しい感情表現を見事に捉えている。曲ごとに参加ミュージシャンを変え、多様なアプローチで仕掛ける。前述のようにサックスがメインで、クラリネットは(5)「Downhill」と(6)「Something Short」のみで吹いているが、これらの曲はクラリネットに特有の温かさがあり美しい。

(1)「Abraxas」のライヴ演奏動画。このメンバーは全員アルバムの参加者。

(3)「The Day Of」と(4)「The Day After」は、2023年10月7日のハマスによる奇襲攻撃で亡くなった友人への追悼として書かれた曲で、ヒライ・ゴヴリーンが音楽を通じて自身の悲しみを処理した感傷的な楽曲だ。彼女はこれに関して「音楽が、私がその時点で話せる唯一の言語だった」と語っている

(7)「Smoke」は1995年の同名の映画『スモーク』(アメリカ、日本、ドイツ合作)にインスパイアされたもの。(6)「Something Short」はごく短い数小節のみを書き、そのほかのほとんどを即興で膨らませていった作品だ。

(5)「Downhill」

『Every Other Now』というタイトルは、人生の様々な“今”が交互に訪れ、それぞれが異なる感情や記憶を呼び起こすことを示唆している。それは世界中のすべての人々の“今”、同じ人間であっても過去何十年も前の出来事で感じたものと同じ感情を呼び起こす“今”。時間の経過や地理的な距離に関わらず、人々は“今”を共有している。

Hillai Govreen プロフィール

ヒライ・ゴヴリーンは6歳でクラシックピアノを弾き始め、12歳のときにクラリネットを手に取った。若くしてイスラエル交響楽団の首席クラリネット奏者を務めるなど才能を開花させ、高校時代を通じ4年連続でアメリカ-イスラエル文化財団から奨学金を得ている。2020年にニュースクールフォージャズとコンテンポラリーミュージックを優等で卒業し、現在はニューヨークとテルアビブを拠点にクラリネット/サックス奏者、作編曲家として活動している。
クラリネット、サックスは台湾メーカーのP.モーリア(P.Mauriat)を愛用。

Hillai Govreen – tenor saxophone, clarinet
Ben Meigners – upright bass, electric bass
Noah Stoneman – piano, Rhodes (1, 2, 3, 4, 7, 8)
Eden Ladin – piano, syntheshizer (5, 6)
Steve Cardenas – guitar (1, 2, 3, 6, 9)
Eric McPherson – drums (1, 2, 3, 5, 6, 7, 9)
William West – drums (4, 8)
Café Da Silva – percussion (3, 4, 8)
Greg Glassman – trumpet (8)

関連記事

Hillai Govreen - Every Other Now
Follow Música Terra