モンゴル出身ピアニストと、ドイツ出身低音マルチ奏者。愛情深き男女デュオの初作にして最高傑作

Shuteen Erdenebaatar & Nils Kugelmann - Under the Same Stars

ピアノとコントラアルトクラリネットの美しいデュオ作

2023年のデビュー作が高く評価されたモンゴル出身のピアニスト、シュティーン・エルデネバートル(Shuteen Erdenebaatar)と、ドイツ出身のベーシスト/クラリネット奏者ニルス・クーゲルマン(Nils Kugelmann)。2020年に出会って以来、音楽だけではなく人生のパートナーとして絆を深めてきた二人による初のデュオ・アルバムが『Under the Same Stars』だ。

アルバムにはシュティーン・エルデネバートルの作曲を6曲(1, 4, 5, 6, 8, 10)、ニルス・クーゲルマンの作曲を4曲(2, 3, 7, 9)収録。いずれの楽曲もクラシックの素養を強く感じさせ、その上で情緒豊かなジャズの即興が見事に折り重なる美しい構成と演奏で、デュオというシンプルな編成だからこその奏者の呼吸や感情がダイレクトに伝わる、極上としか言いようのない素晴らしい音楽を築き上げている。

二人の楽曲と演奏に触れれば、彼らがどれほどロマンティックで豊かな精神世界に生きているかがすぐに分かるだろう。ピアノとコントラアルトクラリネットを中心に奏でる二人のオリジナルの楽曲群は、深く美しい陰影を帯び、ノスタルジックな感情に浸らせる。シュティーン・エルデネバートルはピアノで丁寧に音を紡ぎ、その空間の中でニルス・クーゲルマンの広い音域を持つコントラアルトクラリネットが時にはベースの役割を担い、時には中音域でメロディーや即興のソロを担い、そして時には空気のようにただピアノに寄り添うように“そこにいる”。

(2)「Train to the Past」

ニルス・クーゲルマンはこれまでにドイツの名門レーベル、ACTから2枚のアルバムを出しているが、それらでの彼の顔は抒情的なフレーズを弾く気鋭の若手コントラバス奏者であった。今作ではコントラアルトクラリネットでの隠された豊かな才能を前面に出してはいるものの、(3)「Tiny Wonders」、(6)「Stars Among Us」、(10)「Road Ahead」では“本職”のダブルベースも弾いており、これらの楽曲はよりジャズ色が強いものとなっている。

(3)「Tiny Wonders」

アルバムに彩りを与えるゲストも注目したい。

ひとりは(5)「Whispers Beyond Time」でアルトリコーダーを吹くヤコブ・マンツ(Jakob Manz)。二人の学友であり、シュティーン・エルデネバートル・カルテットではサックスとリコーダーを担当していた人物で、彼もまたACTからリーダー作を複数枚リリースしている注目の若手だ。

もうひとり、(7)「What Will Remain」にはモンゴル出身の馬頭琴(モリンフール)奏者ダライジャルガル・ダーンスレン(Dalaijargal Daansuren)がゲスト参加している。通奏音が効果的な、映画音楽的なストーリーを感じさせるゆったりとした楽曲で、今作中でもっともシュティーン・エルデネバートルのルーツを反映したものとなっている。

(7)「What Will Remain」には馬頭琴奏者ダライジャルガル・ダーンスレンがゲスト参加

Shuteen Erdenebaatar 略歴

シュティーン・エルデネバートルは1998年モンゴル・ウランバートル生まれのピアニスト/作曲家。幼少期からクラシックピアノを学びながら、後にジャズに魅了される。

ウランバートルでクラシックピアノの学部課程を卒業後すぐに18歳でドイツに渡り、ミュンヘン音楽大学でジャズピアノを専攻。在学中からその才能が認められ、数々の国際コンクールで受賞を重ねた。2023年にデビューアルバム『Rising Sun』をリリースし、ドイツ・ジャズ賞やBMW Young Artist Jazz Awardを受賞、批評家から高い評価を得る。彼女の音楽は、モンゴルの伝統音楽の影響とジャズの即興性、クラシックの叙情性を融合させ、詩的で瞑想的なサウンドが高く評価されている。

オーケストラや四重奏団などの作曲家としても活躍し、代表例としてはケルン現代ジャズ管弦楽団などの室内楽アンサンブル、またモンゴル国立フィルハーモニー管弦楽団にも委嘱作品を提供している。

Nils Kugelmann 略歴

ニルス・クーゲルマンは1996年ドイツ・ミュンヘン生まれ。音楽を愛する家庭に育ち、幼少期から音楽に親しんだ。彼の楽器演奏はリコーダーから始まり、すぐにピアノ、クラリネット、そして最後はベースへと続いた。
11歳でクラリネットのための最初の作曲を、15歳でビッグバンドのための最初の作品を、18歳でオーケストラと2つのミュージカルのための最初の作品を書いた。これらは彼の指揮のもと、ミュンヘンのヘルクレス・ザール、ニンフェンブルク宮殿などで演奏された。ミュンヘン音楽大学ではヘニング・シーベルツ(Henning Sieverts)に師事しコントラバスを学び、2022年に修士号を取得して卒業。在学中から様々なプロジェクトのサイドマンとして注目を集めており、これまでに「ヤング・ミュンヘン・ジャズ賞」、「ビーベラッハ・ジャズ賞」、「BMW ヤング・アーティスト・ジャズ・アワード2022」など数多くの賞を受賞している。


二人の出会いは2020年、ミュンヘン大学で。当初クーゲルマンはシュティーン・エルデネバートルのバンドのベーシストだったが、彼女が彼のコントラアルトクラリネットの才能に気づき、デュオのアイディアが生まれたという。以降300回以上の公演を共に行い、音楽のパートナーとしてだけでなく、人生のパートナーとしても深い絆を築いている。

Shuteen Erdenebaatar – piano
Nils Kugelmann – contra-alto clarinet, double bass

Guests :
Jakob Manz – alto recorder (5)
Dalaijargal Daansuren – morin khuur (Mongolian horsehead fiddle) (7)

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