ネイト・スミス2025年新作『LIVE-ACTION』
現代最高のグルーヴ・メイカー、ネイト・スミス(Nate Smith)の新譜『LIVE-ACTION』は、おそらく彼のキャリアでもっとも訴求力が強く、その輝かしいキャリアを代表する作品となるだろう。これまでのように天才的なセンスでドラムスで表現しうるリズムの最高点を示しつつ、今作ではさまざまな一流ミュージシャンをゲストに迎え、ジャズを基軸としながらもポップネスの到達点を見せる。
アルバムはネイト・スミスのシャープで卓越したドラミングが全体を支え、さらに彼が多くの曲でキーボードやパーカッションも演奏するなどマルチ器楽奏者ぶりを発揮。ネイト・スミス自身の作編曲を中心に幾つかの効果的なカヴァーも配置し、その完成度はおそろしく高い。全体的なアナログウォームな音作りも心地よく、最高の音楽体験をもたらしてくれる。
アルバム前半の特筆すべき楽曲として、まずはレイラ・ハサウェイ(Lalah Hathaway, vo)をフィーチュアしたポインター・シスターズ(Pointer Sisters)のカヴァー(3)「AUTOMATIC」。ある種のノスタルジーも感じさせつつ、原曲の70年代ディスコサウンドのいなたさを感じさせない現代的にアップデートされた秀逸なアレンジで、レイラ・ハサウェイ×ネイト・スミスという最高峰のコラボレーションが見事にハマった一例といえる。さらにつづく(4)「MAGIC DANCE」ではリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke, g, vo)とマイケル・リーグ(Michael League, b)を迎え、一筋縄ではいかないユニークなサウンドで虜にする。
「まるで自分の寝室でカセットテープに録音したかのようなサウンドのレコードを作りたかったんだ」そうネイト・スミスは語る。「選択肢を絞ってアナログ機材を使った。楽器もアルバムを通して同じものを使った。それぞれの要素を2、3テイクずつ録音し、コピー&ペーストなどは一切していない。すべて生演奏し、プログラムやシーケンスはまったく使っていない」
彼はさらに、こう付け加えている。
「いくつか音程がずれているし、間違いもいくつかある。でも、だからこそ美しいんだと思う。不完全さ、限界がある。この音楽をこうやって作らなきゃいけないってすごく感じた」
(6)「COUGH DROP」にはLAの鍵盤奏者キーファー(Kiefer)とモータウンやクラシックソウルへの愛溢れるベーシスト/プロデューサーのカートゥーンズ(CARRTOONS)がゲスト参加。さらに(8) 「JUKE JOINT」にはギタリストのチャーリー・ハンター(Charlie Hunter)とヴォーカリストのジャーメイン・ホルムズ(Jermaine Holmes)が参加するなど、聴きどころは満載だ。
Nate Smith プロフィール
ネイト・スミスは1974年12月14日、米国バージニア州ノーフォーク生まれのドラマー/作曲家/プロデューサー。これまでに3度のグラミー賞ノミネート経験をもつ。
幼少期に父親と兄の影響で音楽に親しみ、11歳の頃からドラムスを本格的に学び始める。16歳の時にアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(Art Blakey & The Jazz Messengers)の『Album of the Year』(1981年)を聴いてジャズに興味を持つようになる。20歳の時、ベティ・カーター(Betty Carter, 1929 – 1998)の伝説的なジャズ・アヘッド・プログラムに招待され、ニューヨークのブルーノートで共演を果たし、これが彼のプロフェッショナルなキャリアの起点となった。
2001年、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson, 1958 – 2009)のアルバム『Invincible』収録曲「Heaven Can Wait」のソングライティングとプロデュースで注目を集める。2003年からはデイヴ・ホランド(Dave Holland, 1946 – )のジャズバンドに加入し世界的なツアーを展開。
2008年頃からソロ録音を開始し、2015年に初のソロアルバム『Kinfolk: Postcards from Everywhere』をRopeadope Recordsからリリース。この作品はジャズ、ファンク、ヒップホップを融合させた革新的なサウンドで評価され、2017年にグラミー賞の最優秀編曲賞(器楽またはアカペラ)と最優秀器楽作曲賞の2部門にノミネートされる。2018年には続編『Kinfolk II: See the Light』を発表し、さらなる支持を獲得する。
キャリアを通じて、チャイルディッシュ・ガンビーノ、ジョン・バティスト、パット・メセニー、ロバート・グラスパー、ノラ・ジョーンズ、ブリタニー・ハワード、ラヴィ・コルトレーン、ヴァン・ハント、ヴルフペック、クリス・ポッター、カート・エリングらと共演・ツアーを行っている。近年は、複雑なリズム原理を簡易化するバイラル動画でソーシャルメディアのインフルエンサーとしても活躍。2018年に『Pocket Change』プロジェクトを立ち上げ、ブレイクビートを基調としたアルバムとトランスクリプション本をリリース。2023年には続編『Pocket Change 2: Mad Currency』を発表し、教育的な側面を強化した。