クレズマー・クラリネットの王者Yomが、“静寂のリズム”に見出した音楽表現の新境地

Yom, Théo Ceccaldi & Valentin Ceccaldi - LE RYTHME DU SILENCE

静寂のリズムこそが瞑想を可能にする──Yomの哲学が反映された新作

“クレズマー・クラリネットの王者”ことフランスのクラリネット奏者/作曲家ヨム(Yom)が、新作『LE RYTHME DU SILENCE』でヴァイオリン奏者テオ・セカルディ(Théo Ceccaldi)とチェロ奏者ヴァランタン・セカルディ(Valentin Ceccaldi)の兄弟とともに、深い瞑想の中に潜む“静寂のリズム”を紡ぎ出す。

アルバムに通底するのは“静寂が持つリズム”。これはヨム自身がスーフィーの師にインスパイアされ、長年探求してきた瞑想の定義でもある。収録された楽曲には、静かに寄せては返す波のような音楽の繰り返しがある。と同時に、決してそれだけではなく、躍動する生命の激しさや、生命と自然の無視できない相互作用が確かに存在している。

(9)「RHYTHM OF SILENCE」

演奏も極限的だ。
Yomのクラリネットは一般的なB♭管をカスタムし使用、クレズマーやトルコ音楽で伝統的なG管のような民族的表現力で魅せる。
セカルディ兄弟の弦楽も弓弾き、ピチカート、プリペアド奏法などで多様な音色を生み出す。楽曲は譜面に起こされた部分と、各自の自由な即興に委ねられた部分も完璧にバランスされている。スピリチュアルでありながら、挑戦的に個人が生きる意味を探求するような戦慄を覚えさせるほどの危うさも孕んでおり、背筋がゾクゾクするような素晴らしい楽曲と演奏が次々の続いている。

アルバム全体を通じて、瞑想音楽やヒーリングミュージックのようでありながら、実際はスリリングなジャズであることが明らかだ。感情の抑制と暴発は紙一重、そんな絶妙な芸術の真理を体現した稀有な音楽作品だと感じた。

トリオによるライヴのダイジェスト動画

私は長年瞑想を実践してきましたが、私たちはしばしばそれを一種の静寂、つまり騒音や生命とは対極にあるものと考えてしまいます。しかし実際には、静寂のリズムこそが瞑想を可能にするのです。それは、たとえ静止しようと努めていても、世界はあなたの周りで動き続け、生き続けていることを受け入れることを意味します。私はその境地から作曲したいと思いました。音を振動する物質、つまり創造の根源的な物質として想像すること。そのためには、固定された構造を手放す必要がありました。

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続けて、ヨムはこう補足する。

私はメロディーを忘れ、構築されたソロという概念を捨て去りました。システムとしての音楽を離れ、生き、呼吸する存在として音に触れる必要がありました。それには何年もかかりました。多くのプロジェクトが私を別の道へと導いたのです。しかし、セカルディ兄弟と出会ったことで、ついに私は正しい共鳴を見つけることができました。彼らとの仕事は、ただただ明白で、信じられないほど力強いものでした。

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Yom 略歴

ヨム(Yom)こと本名:ギヨーム・ユメリー(Guillaume Humery)は1980年フランス・パリ生まれ。5歳の頃にセルゲイ・プロコフィエフの子供のための音楽物語『ピーターと狼』を聴いてクラリネットを吹きたいと両親に懇願し、最初はリコーダー、そして次に念願のクラリネットを習ったという。1990年にパリの音楽院に入学、1997年にはクラリネットのコンクールで最優秀賞を受賞している。

ユダヤをルーツに持つ彼はその後クレズマー音楽に傾倒。2001年にOrient Express Moving Shnorersというグループに参加し『Klezmer Nova』をリリース、2007年までツアーに帯同。
以降はソロ活動や自身のバンドでの活動を行い、2008年に自らのアイドルであり伝説的なクレズマー・クラリネット奏者ナフトゥール・ブランドヴァイン(Naftule Brandwein, 1884 – 1963)への敬意を込めつつ新世代のクレズマー・クラリネットの王者の誕生を高らかに宣言する『New King of Klezmer Clarinet』でソロデビューを果たしている。

これまでにトランペット奏者のイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)、フランス在住中国人口琴奏者のワン・リ(Wang Li)、教会オルガン奏者バティスト・フロリアン・マール・オブラード(Baptiste-Florian Marle-Ouvrard)といったユニークな共演も多数。フランス随一のターキッシュ・クラリネット奏者としてその名を馳せている。

Théo Ceccaldi & Valentin Ceccaldi 略歴

ヴァイオリン奏者のテオ・セカルディは1986年5月5日、フランスのピティヴィエ(Pithiviers)生まれ。ヴァイオリンの他にヴィオラやアルトサックス奏者としても知られている。
クラシックを基盤にジャズへ転向し、2017年にVictoires du jazzでRevelation of the yearを受賞した。 テオ・セカルディ・トリオ(Théo Ceccaldi Trio)を率い、DJANGOやKUTUなどのプロジェクトで活躍。エチオピアの音楽シーンにも触れ、アフリカン要素を融合した革新的なスタイルを確立した。

ヴァランタン・セカルディは1989年2月3日、同地生まれのチェリスト/作曲家。
ヨーロッパジャズシーンで革新的な奏法を展開し、Bonbon Flamme Quartetを主宰。
ジャズを軸に実験音楽を探求している。

二人は兄弟での活動も多く、2020年には共同名義のアルバム『Constantine』もリリースしている。

Guillaume Humery – clarinet
Théo Ceccaldi – violin
Valentin Ceccaldi – cello

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