※ 「伊藤志宏 3cello variation」のアルバム『タペストリア』と『NOCTIODRIA』のサブスクが解禁されました。解禁に合わせ、アルバムリリース時に月刊ラティーナ2018年10月号で当方が行ったインタビュー記事を転載します。
文・インタビュー⚫︎花田勝暁
アルバム・タイトルの『Noctiodria(ノクティオドリア)』は、ラテン語を組み合わせた伊藤志宏による造語だ。意味は「意味は「夜の香り/漆黒の香気)」──。
ジャズ・ラテン・器楽系音楽から歌伴まで、確たるテクニックに支えられた閃きに溢れた演奏で八面六臂の活躍をするピアニストの伊藤志宏が、平山織絵、井上真那美、島津由美という3人の女媛チェリストと活動する「伊藤志宏 3cello variation」が、美しい物語を編んだ2014年のデビュー作『Tapestria(タペストリア)』から4年、セカンド・アルバム『Noctiodria』を完成させた。
▼
── 志宏さんは沢山の素晴らしいグループに参加されてますが、志宏さんが一人でリーダーを務めるプロジェクトでは、「3cello」が一番最初に2作目のアルバムを完成させましたね。
伊藤志宏 2作目って難しいんですよ。続けることと作品を出すことはまた違うし。四六時中「3cello」のことを考えているわけではないですけど、この1年、本読んだりしている時に、このアルバムのための情報を収集していたのは、はっきり覚えています。漆黒のアルバムを作ろうと決めて準備して、最後の最後に、1曲目の「マージュ(道士)の海」が書けて、私は大満足です。
── その1曲目の「マージュ(道士)の海」と9曲目の「シビラ(巫女)の島」は、関連があるんですか?
伊藤志宏 そうですね。対になってますね。最後の10曲目の「落陽歌」はボーナス・トラック的というか。9曲目までで、物語の本編は終わっています。大きな軸になっているのは、他に「フォール」、「透明な緑と火の無い赤」で、後者は特に作曲するのも大変でした。
── アンサンブルの響き方がすごく深化していると思いました。
伊藤志宏 3人で1つの楽器にしようという意識がどこかしら芽生えたんだと思います。『Tapestria』の頃は一人一人のクオリティーを良くすることで精一杯でした。音に意味が出てきたアルバムだと思う。でも、もっと先に行きたい。もっと音に意味しかないことをやりたい。
── チェロのお三方が「3cello」でやりたいことを教えてもらえますか?
島津由美 ブルーノートに出たい! (一同笑)
井上真那美 私はフランスでやりたーい! (笑)
平山織絵 そういうことになっちゃうの?(笑)
伊藤志宏 それはやりたいことというか目標でしょ。
島津由美 (笑)。私は志宏さんの音楽は、志宏さんだけのジャンルだと思っているんですけど、多分、正解は志宏さんの中にもなくて、それを音を出しながら気持ち良さを確認して1曲1曲作っている。同じ理想にも向かっているんだけど、同じ道で行かないといけないとは思ってなくて、それぞれが独自のルートで向かってる。いつか道に迷いがなくなって、別のルートから集まって、皆んなで理想の音に集合する。そんな音が出せたらって思ってます。『Tapestria』の時は同じ道を探そうとしていたけど、今の方法もいいんじゃないと志宏さんは言ってくれてる気がしている。
井上真那美 今、島津が言ったことは、すごくよくわかる。それぞれのことは気にはしているんですよ。それぞれの行き方がわかってきたから、合わせる必要はないよねって気は確かにしている。そう行くんだったら、私がこう行けば、気持ちよくなるかしらって。そういう会話を音でしつつあるのかなと思っている。
平山織絵 前作よりもっと「3cello」でこう弾けたらいう理想が強くなって、そこに近づくために自分なりに努力していて、「皆んなで理想の音に集合する」ために常にずっと進んでいる途中っていう感覚です。
── 志宏さんが考えていることがわかるようになってきましたか?
井上真那美 汲み取って欲しいともあんまり思ってなさそうな感じですよ。もっと発展させて欲しいと思っている感じかな。
伊藤志宏 そうだね。私は今こう思って弾いてるってことの方が大事。
井上真那美 それぞれが思うように弾いてほしいってのが譜面に出てるかな。
伊藤志宏 4人で1つの音楽になれば、他はなんでもいいってのはある。説明できない共通項が4人にあるんだと思います。それを毎回確認しなくても良くなった感じです。自己分析とか自己反省をする暇がないほど楽しい音楽を少しやれた気がする。
▼
4人の言葉から、自分たちが手探りで紡いできた「3cello」の音楽に対する確固たる誇りが感じられた。お互いを無二の存在として信頼し合っている。
「3cello」は深化し、より密度の濃いアンサンブルで、美しく深遠な音を奏でる。音の連なりは、叙景的かつ詩情溢れる物語となり、聴くものの心に届く。響きが消えても、物語の香りを心は覚えている。漆黒の物語から生まれる美しく確かな光を心は覚えている。だから、「3cello」の紡ぐ物語には、その物語を知る前とあとでは、世界が少し変わって見えるほどの力がある。
「3cello」の音楽は、目を閉じて耳で読む物語だ。文学賞に音楽で応募できるようになったら、日本で最初に受賞する音楽家は伊藤志宏に違いないと今日も夢想している。
▼

収録曲
①マージュ(道士)の海
②螺旋迷宮
③透明な緑と火の無い赤
④フォール
⑤波紋の組曲Ⅰ
⑥波紋の組曲Ⅱ
⑦波紋の組曲Ⅲ
⑧波紋の組曲Ⅳ
⑨シビラ(巫女)の島
⑩落陽歌
▼

