スロベニア出身サックス奏者ユーレ・プクル、AIが席捲する時代への音楽家からの示唆に富んだ応答

Jure Pukl - Analog AI

サックス奏者ユーレ・プクル新作『Analog AI』

スロベニア出身、現在はニューヨークを拠点とするサックス奏者/作曲家ユーレ・プクル(Jure Pukl)の新譜『Analog AI』は、生成AIがあらゆる分野を席捲し人類史に革命を起こす渦中にある現代社会に対する、音楽家からの“回答”であり、おそらくは“抵抗”だ。

(12)「Prometheus」

コンセプチュアルなアルバムゆえに、器楽曲でありながら各楽曲が示す主張を読み解くのも楽しい。
アルバムはソプラノサックスによる人力シーケンスをエフェクトで拡張した(1)「Juready?」に始まり、(2)「Tai」など生成AIのハルシネーションによるカオスを示したような、難解だがアーティスティックな主張が込められた楽曲がつづく。

例えば(6)「Augmented AI」(拡張されたAI)では増和音(オーグメントコード/aug)を楽曲全体で効果的に用い独特の浮遊感を表現。(14)「12 tone Samba in 9」では9拍子のリズムでサンバ(どちらかというとサンバではなくラテン音楽のように聞こえるが)を有機的に表現している。

「音楽は、生身の観客の前で、ミュージシャンがその瞬間、その空間で演奏する時こそ、最も力強く、最も美しく、最もエキサイティングで、最も叙情的で、官能的である」ユーレ・プクルのこの言葉こそ、時代の潮流に面と向き合った音楽家たちの代弁なのだろう。

Jure Pukl 略歴

ユーレ・プクルは1977年10月7日スロベニア生まれのジャズサックス奏者および作曲家。テナーサックスとソプラノサックスを主な楽器とし、バスクラリネットも演奏する。

少年期にガレージバンドを結成し、アルトサックスを始めたが、教師の影響でジャズに傾倒した。ウィーン大学とグラーツ大学でクラシックとジャズサックスを学び、ハーグ音楽院とバークリー音楽大学でさらに研鑽を積んだ。これらの教育を通じて、国際的な視野を広げた。彼はスロベニア最高の芸術賞であるPrešeren Fund Awardを2015年に受賞し、国内で最も創造的なミュージシャンの一人として評価されている。

現在はニューヨークに居住し、チリ出身のサックス奏者メリッサ・アルダナ(Melissa Aldana)を妻に持つ。これまでに共演した著名なアーティストにはヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)、ジョシュア・レッドマン(Joshua Redman)、エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)、ジョー・ロヴァーノ(Joe Lovano)、デイヴ・リーブマン(Dave Liebman)、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)などがおり、多様なプロジェクトに参加している。

音楽スタイルは現代ジャズの枠組みで実験的であり、リズムの複雑さと即興性を重視。代表的なアルバムとして、妻メリッサ・アルダナとのテナーサックス2本のカルテット編成で注目を集めた『Doubtless』(2018年)、ポスト・パンデミックを反映した『Broken Circles』(2021年)などがある。彼の作品は、伝統的なジャズ要素と現代的なハーモニー、リズムの融合が特徴であり、欧米のジャズシーンで高い評価を得ている。

Jure Pukl – tenor saxophone, soprano saxophone
John Escreet – piano, keyboard
Joe Sanders – double bass
Christian Lillinger – drums

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