ヴァイオリン奏者アプールヴァ・クリシュナは真実を語る
人類が長い歳月と数えきれないほどの犠牲から学んだ末に築き上げた秩序を、人気者の利己的な指導者が実にカジュアルに壊してゆく。このやりきれない世界で、「愛だけが真実だ!」と確信をもって言える人がどのくらいいるだろうか?
それがスクランブル交差点の中心で発せられた狂人の叫びだろうと、深夜の部屋でアルコールに浸った孤独者の誰が聞くでもない呟きであろうと、この幾分時代遅れなスローガンはそばから虚しく風化していくに違いない。だが、その言葉は死に絶えてはいなかった。世界の「片隅」と呼ばれる至る場所で、静かに、けれど力強く息づいていたのだ。
インドを拠点にグローバルに活躍するヴァイオリン奏者、アプールヴァ・クリシュナ(Apoorva Krishna)の『Only Love is Real』を聴きながら、そんなことを考えた。ヴァイオリンを単なる楽器ではなく、“感情を表現する言語”として身体のように自在に操る彼女の演奏を聴けば、誰だって少しばかり感傷的になり、祈りにも似た莫迦な思考に陥ってしまうものだ。
(1)「White」から、手を替え品を替え繰り出される、まさに魔法のような音楽。
これは彼女自身の人生のマントラだ。彼女は語る:
「不確実性、喪失、成長、喜びの中で、常に残るのは愛だけ——神聖な愛、家族愛、共同体愛、恋愛、自己愛」。
アルバムは「東洋と西洋の出会い」といった手垢のついた言葉を超え、「ただ在る(being)」という境地から生まれた。伝統的なカルナティック音楽の純粋さを保ちながら、現代的な響きで内面的な旅を表現する。
収録された7曲すべて異なる編成で記録されており、それぞれ精神的な深みへと誘うような音楽的な驚きに満ちている。
最初はアマン・マハジャン(Aman Mahajan)のピアノとスナード・アヌール(Sunaad Anoor)のカンジーラをフィーチュアした瞑想的な(1)「White」。これはあらゆるノイズを削ぎ落とした先にある“純粋な祈り”そのもののように感じる。南インド古典音楽の旋律体系であるラーガ・カンナダを基調としたこの曲で、アプールヴァは自身のルーツであるカルナティック音楽への無垢な愛を綴っている。アマン・マハジャンの端正なピアノと、スナード・アヌールの力強くも繊細なリズムに導かれ、彼女のヴァイオリンは至福と安らぎの境地を静かに描き出す。これは、混迷を極める社会において、人々が真っ先に取り戻すべき「ありのままの自分」へと回帰するための透明なプロローグのようだ。
伝統音楽はしばしば排他的だが、アメリカで生まれ幼少期を過ごしたアプールヴァ・クリシュナにとって、それは“常識”ではない。今作の隠されたテーマのひとつは、南インドの古典音楽と、西洋音楽あるいは世界的なスタンダードとなっている黒人音楽との接続だ。ザキール・フセイン(Ustad Zakir Hussain, 1954 – 2024)へのトリビュートである(4)「Merging Parallels」や、マイケル・リーグ(Michael League)とコラボした(5)「Surrender」はその好例。ここには異なる文化の受容と尊重が等しい均衡で存在していることは言うまでもない。
「タイトルは、私が何度も何度も立ち返る真実なんです」と彼女は言う。
「不確実性、喪失、成長、そして喜びの瞬間に、一つだけ残るものがあります。それは愛です。神聖な愛、家族の愛、コミュニティの愛、ロマンチックな愛、あるいは自己愛。このアルバムは、その気づきから生まれました」とアプールヴァは付け加えている。
Apoorva Krishna プロフィール
アプールヴァ・クリシュナは1992年に米国ニュージャージー州に生まれ、小学校6年生のときにインドに移住している。
インドではラルグディ・スリマティ(Lalgudi Srimathi)とアヌラダ・スリダール(Anuradha Sridhar)に師事しカルナティック音楽を習熟。その後ボストンのバークリー音楽大学で学び、世界中の優れた音楽家から刺激を受けその創造性をより豊かなものにしていった。
2017年にロンドン・タリシオ・トラストのヤング・アーティスト賞を受賞し、インド人として初めて助成を受け、古典的なデビューアルバム『Apoorva Thillanas』は高く評価された。その後、2021年に国際デビュー作『Intuition』をリリース。
これまでにジョン・マクラフリン(John McLaughlin)、ザキール・フセイン(Zakir Hussain)、シャンカール・マハデヴァン(Shankar Mahadevan)、ボンベイ・ジャヤスリ(Bombay Jayashri)といった巨匠とも共演している。
Apoorva Krishna – violin, vocal
Aman Mahajan – piano (1)
Sunaad Anoor – khanjira (1)
Vijay Prakash – vocal (2)
Perico Sambeat – saxophone (2)
Eve Matin – harp (2)
Patrick Duke Graney – percussion (2)
Vinod Shyam – mridangam (2)
Aaron Sinclair – cello (3)
Varijashree Venugopal – vocal (4)
Aleif Hamdan – electric guitar (4)
Sunaad Anoor – percussion (4)
Bruthuva Caleb – bass (4)
Michael League – oud (5)
Momin Khan – sarangi (6)
Ojas Adhiya – tabla (6)
Kulur Jayachandra Rao – mridangam (6)
Mia Garcia – guqin, nylon-string guitar, vocal (7)