アルジェリア出身SSW、スアド・マッシのマグレブ・ロック
現代のマグレブ社会を象徴するシンガーソングライター、スアド・マッシ(Souad Massi) の新作のタイトル『Zagate』は、フランス語で「事態は悪化している」を意味する「ça se gâte」に由来するアルジェリア風スラングだという。この作品は、四半世紀前にアルジェリアからフランスに亡命し、今もなお社会的なテーマを創造力の源とする彼女による、混乱や暴力や人種差別、戦争が絶えない現代社会への鋭利な警告だ。
今作は「自分自身の世界観を共有し、沈黙を破るための詩的な抵抗」だという。ロック、アフロビート、サハラ・フォーク、パリ・ブルースといったジャンルを横断する今作は主にイギリスでレコーディングされており、高く評価された前作『Sequana』をプロデューサーを務めたアラブやアフリカの音楽にも造詣の深いジャスティン・アダムス(Justin Adams)と再びタッグを組んでいる。
(1)「Samt」はアラビア語で「沈黙」を意味するタイトル。ファンクとアフロビートを融合し、スアド・マッシの力強い歌唱に続くズルナのソロが印象的だ。
(2)「D’ici, De là-bas」と(7)「Congo Connection」には、ブルンジ生まれのルワンダ系ガエル・ファイユ(Gaël Faye)と、コンゴ出身のユスファ(Youssoupha)という二人のラッパーがそれぞれゲスト参加し、フランス語のラップを聴かせる。前者は些細な違いが引き起こす紛争や戦争の根源を問い、自由や平和への渇望を表現。後者でユスファが伝えるのは、貪欲な金持ちの犯罪者に搾取され、労働させられる子供たちの視点だ。
アルバムのタイトル曲であるマグレブ・ロック(3)「Zagate」は 、空の色が変わることや、空気が重くなるという描写を通じて、社会が崩壊に向かっているという感覚について歌っている。歌詞では人々の人生に土足で乗り込んでくる権力者への対抗を、「素手で炎と戦え!」という歌詞が象徴する。
アルバムのカヴァー・アートは、情熱や生命力、そして流血や生命の危険を象徴する赤色を基調とし、スアド・マッシが自身のルーツであるベルベル人の伝統衣装を着用しながら、顔を“左右”に二分するマーキングが施された印象的なデザインとなっている。その縦のラインは、“沈黙と真実の間の糸”を表現している。
Souad Massi プロフィール
アルジェリア出身のスアド・マッシは1972年生まれのアマーズィーグ(ベルベル人)。労働者階級の貧しい家庭で育ち、幼い頃からギターを手に取り歌い始めたという。
1990年代のはじめ、政治的な歌を歌う地元のバンドAtakorに参加し7年間活動したが、その歌の内容から保守派からの殺害予告などの脅迫を受けるようになり国外退避を余儀なくされ、1999年からはフランスのパリに居を構えている。2001年にソロ・デビュー作『Raoui』をリリース。
音楽的には地元のベルベル音楽はもちろん、米国のロック、フォーク、カントリーやポルトガルのファド、カーボベルデのモルナ、スペインのフラメンコ、さらにアラブ音楽などから幅広く影響を受けており、それらを無意識のうちにブレンドした独特の音楽性で人気を博している。歌詞もアラビア語、フランス語、ベルベル語、英語など多様で、時には同じ曲を別の言語で歌うこともある。