美しく強靭な女性ベーシスト、リンダ・オーというおそるべき才能

Linda May Han Oh - Aventurine

底知れぬ才能の解放、リンダ・オーの4thアルバム『Aventurine』

NYで活躍する女性ベーシスト、リンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh)の4枚目のフルアルバムとなる2019年作『Aventurine』は、これまでもアルバムを発表するたびに新しい才能を解放して見せてきた彼女の底知れない可能性をさらに押し広げた素晴らしい作品だ。

アルバムはチャーリー・パーカーの(4)「Au Privave」、ビル・エヴァンスの(14)「Time Remembered」を除く全曲がリンダ・メイ・ハン・オーのオリジナル曲。どの曲も現代ジャズに期待されている複雑な作曲でありながら、難解になりすぎず聴き手へ届けるという目的も見失わない。

今作で大きくフィーチュアされたのは弦楽四重奏。緻密でクラシカルな響きが、リンダ・オーの力強く美しいジャズをこれまで以上に惹き立てている感がある。

日本発のペーパーアート「切り紙」をテーマにした楽曲、(3)「Kirigami」。

有名な錯視である「ライラック・チェイサー」をそのまま曲名にした(2)「Lilac Chaser」は不思議な曲。リンダ・オーはダブルベースではなくエレクトリック・ベースを手に、錯視という脳の驚異をコミカルに表現する。

ライラックチェイサー
「ライラック・チェイサー」と呼ばれる錯視。
中央の十字をしばらく見つめると、時計回りに回る緑色のドットがピンク色のドットを食べ尽くし、消してしまう

アルバムの中でも一際異彩を放つ作品(6)「Song Yue Rao」は、リンダ・オーのルーツである中国の伝統的な楽曲「松月绕」にインスパイアされたもの。伝統的な中国音階によるメロディーと、それとは裏腹に各パートが少しずつずれて演奏される非常にテクニカルな構成の対比がとてもユニークだ。

アルバムの最後に、リンダ・メイ・ハン・オーは“ジャズピアノの詩人”ビル・エヴァンス(Bill Evans)の名曲「Time Remembered」を取り上げている。

見るとフィジカルCDが欲しくなってしまう危険な映像。
ほぼ同時期にリリースされた彼女の夫、ファビアン・アルマザンのCDにも同じような仕掛けが施されている。

中国ルーツ、マレーシア生まれ、オーストラリア育ち、そして米国で活躍するリンダ・オー

リンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh)は中国系移民の両親のもと、1984年8月25日にマレーシアで生まれた。その後4才で家族でオーストラリア西部の都市パースに移住。4歳からクラシックピアノを教わり、10代前半でクラリネットやファゴットといった管楽器を習得した。高校時代にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズなどの曲を演奏するカヴァーバンドでベースを担当していたようだ。2002年頃よりジャズを学び、当初はレイ・ブラウン、スコット・ラファロ、チャーリー・ヘイデンといったベーシストの参加作品からジャズのベースを学んでいたようだ。

その後オーストラリアで数々のコンペティションで優勝、奨学金を得た彼女は2006年に米国ニューヨークに移り、マンハッタン音楽院で学ぶ(同級生には後に夫となるピアニスト、ファビアン・アルマザンも)。その後も権威あるセロニアス・モンク・ベース・コンペティションで受賞するなど輝かしい経歴を辿り、大御所ギタリスト、パット・メセニー(Pat Metheny)のツアーに参加するなど現代ジャズを代表するベーシストにまで登りつめた。

リンダ・メイ・ハン・オーという注目のベーシストが今作『Aventurine』で見せた飛躍を、ぜひ耳で聴いて感じていただきたい。

Linda May Han Oh – acoustic/electric bass, compositions/arrangements
Greg Ward – alto/soprano saxophone
Fung Chern Hwei – violin
Sarah Caswell – violin
Bennie Von Gutzeit – viola
Jeremy Harman – cello
Matt Mitchell – piano
Ches Smith – drums/vibraphone

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