チェロという楽器の魅力に気付かされる。鬼才アルチョーム・マヌーキアン新譜

Artyom Manukyan - Alone

多彩なゲストを迎えたアルチョーム・マヌーキアン新作

アルメニア出身のチェロ奏者、アルチョーム・マヌーキアン(Artyom Manukyan)が新譜『Alone』をリリースした。ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)やバハグニ(Vahagni)らが参加した衝撃のデビュー作『Citizen』(2015年)から、実に4年ぶりのソロ作品だ。

前作同様に、自身のオリジナル曲のソロ演奏(多重録音含む)を核に、豪華なゲストミュージシャンが華を添える構成になっている。アルチョーム・マヌーキアンのチェロはアルコ(弓弾き)もピチカート(指弾き)も、さらにはボディをパーカッションのように叩く奏法まで多彩で、ベースのような低域から中高音域まで4オクターヴを超える広い音域をもつチェロという楽器の可能性に改めて気づかされる。

アルバム『Alone』より、(2)「The Form」
多重録音を用い、チェロの広い音域を存分に駆使したブルース感覚も冴える現代JAZZ。

今作のゲストも多彩だ。
世界的に活躍する同郷アルメニア出身のピアニスト、ヴァルダン・オヴセピアン(Vardan Ovsepian)や、現代最高峰のジャズ・ヴォーカリスト、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)、さらにはデヴィッド・ボウイの遺作『★』にも参加していたベーシスト、ティム・ルフェーヴル(Tim Lefebvre)など、興味をそそられる名前が並ぶ。

…それにしても、アルチョーム・マヌーキアンのチェロを聴いていると、人間の声の音域に近いと言われ、古くからその豊かな音色で愛されてきたチェロという楽器の奥深き魅力に取り憑かれるような感覚になる。

「チェロ」でジャズを演ることの意味

そしてそのチェロの魅力にもっとも取り憑かれているのが、このアルチョーム・マヌーキアン本人だろう。彼は幼少期からジャズを“1日27時間聴いていた”と語っている。チェロでジャズを演奏する音楽家はいなかったので、ジャコ・パストリアスやマーカス・ミラーといったベーシストを研究した。

アルチョーム・マヌーキアンの父親はジャズのヴァイナル(アナログレコード)のコレクターであり、母親はクラシックピアノの教師であった。

アルチョームが6歳のときに、母親は彼を音楽教室に連れていきピアノを習わせようとしたが、アルチョームは「こんな木片は弾きたくない」と泣きながら拒否したというエピソードが残されている。

なぜ彼がチェロを愛し、チェロに愛され、数少ないジャズのチェロ奏者として注目される存在になっているか──
それはこの作品を聴けばすぐに分かるだろう。

2019年のアルバム『Alone』のティーザー動画。

Artyom Manukyan - Alone
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