スペインの才媛による極上ボッサ&サンバ作品
スペイン・バルセロナ出身のトランペッター/歌手のアンドレア・モティス(Andrea Motis)がフランスのジャズレーベル Impulse! からリリースした2019年作『Do Outro Lado do Azul(放題:もうひとつの青)』は、このスペインの天才少女と、ブラジルが誇る豊かな音楽文化のもっとも幸せな邂逅だ。
彼女が2017年のデビューアルバム『Emotional Dance』でも取り上げていたブラジルの音楽を、本作ではより深堀りし進化させている。
ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)も愛したサンバの古典(7)「Pra que discutir com Madame?(マダムとの喧嘩はなんのため?)」や、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ(Paulinho da Viola)の名曲(8)「Dança da Solidão」といったブラジル音楽ファンが泣いて喜びそうな曲から、知る人ぞ知る巨匠ゼー・ミゲル・ウィズニキ(Zé Miguel Wisnik)の(13)「Baião De Quatro Toques」やイスマイル・シウヴァ(Ismael Silva)の(1)「Antonico」など、選曲のバランスも良い。アンドレア・モティスによる数曲のオリジナルも最高で、アルバム全体のクオリティは前作よりも格段に上がっている印象だ。
オリジナル曲の(3)「Brisa」など、ヴォーカル・パートは高速ジャズサンバ、トランペットで始まるソロ回しの部分はジャズそのものに聴こえ、最後のサンバ・コーラスに雪崩れ込む展開も含めて面白い。
サウンド面では若き鬼才パンデイロ奏者セルジオ・クラコウスキ(Sergio Krakowski)の存在が際立っている。彼の生み出すサンバの変化自在のグルーヴがとても気持ちよく、バンドのリズムを有機的に引っ張っている。
スター性抜群、天賦の才能
1995年生まれ。キュートなルックスも魅力のアンドレア・モティス(Andrea Motis)は、ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)やエスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)らと同様に、数年に一度現れる才色兼備のスターだ。
彼女はスペイン屈指のベーシストであるジョアン・チャモロ(Joan Chamorro)が主宰し、多くの若手ジャズミュージシャンを輩出するサン・アンドレウ・ジャズ・バンド(Sant Andreu Jazz Band, 2006年創立)の出身。7歳でトランペットを始め、12歳の時に同ジャズバンドに加入している早熟の天才だ。2012年にスペインで行われたジャズフェスティバルで、クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)が彼女をステージに上げたことがきっかけとなり一躍脚光を浴びることとなった。
アンドレア・モティスの『Do Outro Lado do Azul(放題:もうひとつの青)』は、ジャズやブラジル音楽に知識がなくとも、ナチュラルな女性ヴォーカル作品としてリラックスして楽しめる作品だ。彼女は全編ポルトガル語で歌っているが、これはありがちな上辺だけをすくったようなボッサではなく、サンバの真髄を愛する若い音楽家による魂の結晶のような素晴らしい作品だと思う。