音楽を通じた西洋〜中東の旅。『Le Tsapis Volant』
フランス在住のピアニスト/作曲家、ステファン・ツァピス(Stéphane Tsapis)の2019年新譜『Le Tsapis Volant』が最高に素晴らしい。西洋と中東の音楽文化を繋ぐ架け橋のような作品だ。
『空を飛ぶツァピス』という意味のタイトルが裏切らない内容で、女性ヴォーカル&コーラスも招いた今作ではジャズ、クレズマー、アラブ音楽を自在に混ぜ合わせ、これまでに聴いたこともないような壮観な音世界を構築している。
今作では自身のピアノトリオのほか、曲によってダフやダラブッカなど中東のパーカッション、さらに女性のコーラスやヴォーカルもフィーチュアされており、さらにスパイス程度のエレクトロ要素も加わるなど多面的な楽しみ方ができる。
自身のルーツであるギリシャの地中海音楽を彷彿とさせるようなオリジナル曲も素晴らしいが、アルバムの中に散りばめられた各地の伝統曲たち──トルコ古典の(4)「Sultani Yegah」や、ユダヤ人に伝わる(11)「Yagmur Yagar」、微分音の特殊な調律が施されたピアノ(オリエンタルピアノ)で弾かれる(12)「Ta Paidhia Tis Geitonia Sou」などの独自の解釈もこの作品にただのエキゾチズムでは語ることのできない深みを与え、作品をアーティスティックで魅力あるものにしている。
(6)「Le vent vient de loin…」では10年以上演奏を共にしてきたフランス在住の日本人サックス奏者、仲野麻紀(Maki Nakano)による日本語ヴォーカルも聴くことができる。
“オリエンタルピアノ”を用いた意欲的なソロピアノ作品『Le Piano Oriental』
ステファン・ツァピス(Stéphane Tsapis)はギリシャ人の父、フランス人の母のもと1982年に生まれた。
パリ音楽院でピアノと編曲を学び、2012年にはデューク・エリントン・コンテストで作曲賞を受賞。
ルーツであるギリシャ音楽を作曲・演奏のインスピレーションの源泉としたカイマキ(Kaïmaki)というグループでの活動でも知られている。
先に紹介したアルバム『Le Tsapis Volant』と時期を同じくしてアラブ音楽で使われる四半音を奏でることができるように特別に調律された“オリエンタル・ピアノ”を用いた意欲的なソロピアノ作品『Le Piano Oriental』も発表(ともに2019年11月8日リリース)しており、こちらも中東音楽ファン、オリエンタルジャズファン、ピアノファンにおすすめだ。
きっと、一聴して「このピアニスト、ヤバい…!!」となるに違いない。
このオリエンタル・ピアノは、1950年代にアブダッラー・シャヒーン(Abdallah Chahine)によって製作され、その曾孫である小説家/イラストレーターのゼイナ・アビラシェド (Zeina Abirached)による同名小説『オリエンタルピアノ』ともリンクしており、このプロジェクトでステファン・ツァピスは日本を含む世界各地のツアーも行っている。