ジャンルを超えた音楽の悦び。名ギタリスト、ベルタ・ロハスによるブラジル名曲集

Berta Rojas - Felicidade

ベルタ・ロハスがMPB大御所たちと奏でるブラジル音楽というアート

パラグアイ出身で主にクラシックの分野で活躍するギタリスト、ベルタ・ロハス(Berta Rojas)がブラジル音楽に挑んだ2017年作『Felicidade』は、日本ではあまり知られていないがクラシックギターとブラジル音楽、さらにはジャズの架け橋となる名盤だ。アルバムにはトッキーニョ(Toquinho)やイヴァン・リンス(Ivan Lins)、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)といったブラジル音楽の頂点にいる音楽家たちもゲスト参加し、ジョビンやナザレー 、パスコアール、ジスモンチ、バーデン・パウエルらの名曲を“クラシックギター”の視点を中心に再構築。ベルタ・ロハスが爪弾く“エレガンスの極致”とも称される美しいギターが南米の素晴らしい音楽文化体験の旅に誘ってくれる。

ブラジルの文化大臣を努めたことでも知られるブラジルポピュラー音楽(MBP)大御所、ジルベルト・ジルとの共演で「Mis Noches Sin Ti」の演奏。

ブラジルの名曲を多数収録

アルバムにはブラジルの名曲が多数収録されている。

まず、ボサノヴァの創始者として知られる作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim, 1927 – 1994)の代表曲(1)「Felicidade」、(3)「Desafinado」はパラグアイの国立交響楽団との共演。絢爛なオーケストラをバックに、ボサノヴァに用いられるギター奏法である“バチーダ”も交えた品のあるギターを聴かせてくれる。

ブラジルを代表するギタリスト/作曲家のバーデン・パウエル(Baden Powell, 1937 – 2000)の楽曲はメドレー形式の(2)「Homenaje a Baden Powell Medley」と(9)「Berimbau 」で披露される。カポエイラでも用いられるブラジルの伝統的な弓形の楽器をテーマとした(9)「Berimbau」では、本来プリミティヴな印象の名曲のメロディーがオーケストラによる圧巻のサウンドに変貌している。

(6)「Odeon」は数々の名曲を残しながらも悲劇的な死を遂げたショーロの作曲家エルネスト・ナザレー(Ernesto Nazareth, 1863 – 1934)の代表曲で、トッキーニョとのデュオで演奏される。シンプルながら哀愁のある同曲の演奏として最高レベルの名演だ。

(8)「Água E Vinho(水とワイン)」は作曲家/ピアニスト/ギタリストのエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の代表曲で、ピアニスト、ギタリストの双方に人気の曲だ。もともとドラマチックな展開の曲だが、オーケストラをバックに演奏されることで更に感傷的な表現をみせる。

(11)「Choro Típico」はクラシック音楽にブラジルの伝統的な音楽の要素を取り込んだ作風で知られる作曲家ヴィラ・ロボス(Heitor Villa-Lobos, 1887年 – 1959)の代表曲。

(12)「Jongo」ではクラシックギターの難曲として人気のパウロ・ベリナチ(Paulo Bellinati, 1950 -)による躍動感ある名曲を、ベルタ・ロハスのソロギターで聴くことができる。後半ではギターのボディをパーカッションのように叩く表現も。

パラグアイから世界へ。ベルタ・ロハス略歴

ベルタ・ロハス(Berta Rojas)は1966年生まれの女性ギタリスト。ギターは7歳から始めており、10歳から本格的にクラシックギターの教育を受けた。

キューバ出身のアルトサックス奏者パキート・デリヴェラ(Paquito D’Rivera)と共演した2012年作『Día y Medio』を皮切りに、2013年『Salsa Roja』『Historia del Tango』の3作がラテングラミー賞にノミネートされるなど、クラシックを中心に、それに留まらない多方面での活躍で魅せてきた。

近年クラシックギタリストたちのレパートリーとして大人気の同郷パラグアイの作曲家/ギタリストのアグスティン・バリオス(Agustín Barrios, 1885 – 1944)の楽曲の伝道師としても知られており、パラグアイ政府から功労者として文化賞も受賞している。

多彩な音楽性を持つ素晴らしいギタリスト

聴き手はとかく“クラシック”“ジャズ”といったジャンルで勝手にカテゴライズしがちだが、この作品を聴くとジャンル分けなど本当にどうでも良いことに気付かされる。これはクラシック、これはジャズ…といったカテゴライズは手段としては便利だが、本来音楽はそういったものに縛られるべきではないのだ。
世間的にはクラシックギタリストとして認知されているベルタ・ロハスのギターを聴いていると、強くそう思う。
本作『Felicidade』には、ただ偉大な音楽家たちによって創り出された素晴らしい音楽があるだけだ。

アルバムのラストに収録された(13)「Recuerdos De Ypacarai」のMV。
トッキーニョのヴォーカルが渋い。
Berta Rojas - Felicidade
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