南アフリカの現代ジャズシーンを代表する壮大な作品
女性ピアニスト、タンディ・ントゥリ(Thandi Ntuli)の2018年の2枚組大作『Exiled』は、米国ニューヨークや英国ロンドン、イスラエルなど世界中で巻き起こる新時代のジャズの爆心地のひとつとして注目される南アフリカを代表する現代の名盤だ。ファンクやR&B、そして現地の伝統音楽と絡みつつ1950年代頃より発展し続けてきた南アフリカのジャズのひとつの到達点と言っても過言はないと思う。
多彩なゲストミュージシャンを迎え、タンディ・ントゥリ自身もアコースティックピアノとエレクトリックピアノを使い分け、時にはヴォーカルもとるなど変化に富んだ楽曲構成は聴き進めるごとに魅力を増し、この現れたばかりの群を抜いた新しい才能に驚かされるだろう。
アルバムは女性詩人レボ・マシール(Lebo Mashile)の詩をフィーチュアした(1)「Intro」によって幕を開ける。レボ・マシールのTEDでの講演にインスパイアされたという同曲は、自らが正しいと信じる主張を“全世界の善良な心を持つ市民”に向けて発信する現代のグローバルなスタイルを踏襲している。
そして(2)「Exiled」から始まる、激情と理性の狭間で揺れ動く彼女の楽曲を、ピアノを、歌声を、誰がどうして語ることができるだろう…。アルバムを通して1時間半におよぶ膨大な情報量の演奏に対して、南アフリカという国が背負ってきた/闘ってきた近代の歴史を教科書で得た知識でしか知らない私に返す術はない。
それほどにこの演奏は聴けば聴くほど饒舌で、背景に部外者がそう安易に語れない想いが込められているようにしか思えないのだ。
…それにしても、タンディ・ントゥリのピアノは通常は理性的だし、ヴォーカルも美しく魅力的なのに、ソロになった途端野生を解き放ったような印象を受けるのはなぜだろう。彼女の演奏にはなぜだけ魔術的リアリズムを感じてしまうものがある。
注目される南アフリカの現代ジャズシーン
南アフリカ絡みのニュースとしては、2019年末にピアニスト、ンドゥドゥーゾ・マカティニ(Nduduzo Makhathini)がジャズの名門ブルーノートレーベルと南アフリカ人として初めて契約を交わしたことも話題となった。
同世代のアフリカンピアノの後継者とも呼ばれるカイル・シェパード(Kyle Shepherd)やサックス奏者のリンダ・シカカネ(Linda Sikhakhane)、トロンボーン奏者/歌手のシヤ・マクゼニ(Siya Makuzeni)らと共に、盛り上がりを見せる南アフリカのシーンに注目していきたい。
Thandi Ntuli – piano, keyboards, vocals, spoken word (1)
Sphelelo Mazibuko – drums
Keenan Ahrends – guitar
Spha Mdlalose – backing vocals
Benjamin Jephta – bass
Marcus Wyatt – trumpet, flugel horn
Mthunzi Mvubu – flute, alto saxophone
Justin Sasman – trombone
Sisonke Xonti – tenor saxophone (2, 5, 8, 13, 15)
Linda Sikhakhane – tenor saxophone (1, 6, 7, 9, 10, 12)
Vuyo Sotashe – vocals & backing vocals (9)
Kwelagobe Sekele – additional sounds (4)
Lebogang Mashile – poetry, spoken word (8)
Tlale Makhene – percussion (5,12)