青葉市子、至福の「声とギター」
シンガーソングライター/ギタリストの青葉市子が、2020年1月に東京・赤坂の草月ホールで行われたデビュー10周年記念コンサートの模様をライヴ盤として発売した。
『gift at Sogetsu Hall』と題された今作は、アカペラで披露される(1)「守り哥」で始まる、声とギターだけの17曲・79分の至福のとき。
かつてカエターノ・ヴェローゾは故ジョアン・ジルベルトの演奏を称して「静寂よりも美しいのはジョアンだけだ」と語ったが、現在の日本の音楽界でこの言葉がぴったりなのは彼女だと思っている。
個人的には彼女が歌う山田庵巳のカヴァー(11)「機械仕掛乃宇宙」の13分におよぶ壮大な物語が収録されているのが嬉しい。青葉市子によるこの演奏は楽曲自身が持つ独特の世界観とも相まって、間違いなく本作のハイライトだ。
アルバムを通して時折マイクが拾う観客の咳払いやクシャミに殺意が沸く瞬間はあるものの、本作は青葉市子という突出した音楽家の素晴らしい記録であることは間違いない。
青葉市子は初心者向けのショートスケールのクラシックギター、YAMAHA CS40J の愛用者として知られているが、このライヴの映像を観る限り、現在は美しい装飾の施されたエレガットを用いているようだ。
アンコールの(17)「おめでとうの唄」はアンプラグドで披露される。耳を澄まして彼女の音楽に浸る幸せは、どれほどのものだろう…。この日の観客が羨ましく思える一枚だった。