豪華キャストでMPBの知られざる名曲を演じた作品
ブラジルに生まれ、現在は米国ロサンゼルスを拠点に活動する歌手、ルシアーナ・ソウザ(Luciana Souza)の2020年新譜『Storytellers』。
母国ブラジルの優れたSSWたちの楽曲にフォーカスし、ドイツ・ケルンの世界的ビッグバンド、WDR Big Band の演奏をバックに歌う上質な一枚だ。
ブラジルの著名な作曲家たちの楽曲を収録しているが、誰にでも知られているような定番曲はない。例えば、ブラジルを代表する作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)の(2)「Matita Perê」や(8)「Chora Coração」など、ボサノヴァファンでもあまり聴いたことがない曲なのではないだろうか。
アルバムは近年よく活動を共にするギタリスト/SSWシコ・ピニェイロ(Chico Pinheiro)作の(1)「Varanda」で幕を開ける。その後もイヴァン・リンス(Ivan Lins)、エドゥ・ロボ(Edu Lobo)、ギンガ(Guinga)、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)、ジャヴァン(Djavan)といったブラジル音楽界のビッグネームの曲が並ぶが、どれも彼らの代表曲ではなく、“隠れた名曲”といった渋い選曲だ。
WDRビッグバンドを指揮するのはジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)のグラミー賞受賞作『Both Sides Now』(2000年)でオーケストラアレンジを担当した巨匠ヴィンス・メンドーザ(Vince Mendoza)で、(5)「Choro #3」は彼のオリジナル曲。
総勢20名を超える世界最高峰のビッグバンドの演奏は流石の迫力で、ソロの応酬も凄い。個人的にはちょっとまとまりすぎで面白みに欠ける感もあるが、ルシアーナ・ソウザのヴォーカルはちゃんとポルトガル語だし、良質なブラジル音楽×ジャズの作品としておすすめだ。
ジャケ写はセバスチャン・サルガド、ブラジル出身の世界的写真家
アルバムのジャケットを飾る美しい写真はブラジル・ミナスジェライス出身の世界的な報道写真家、セバスチャン・サルガド(Sebastião Salgado, 1944年 – )によるもの。
世界各地の美しい自然や人間社会のリアルな姿を撮影し続け、ユージン・スミス賞やハッセルブラッド国際写真賞を受賞するなど写真家として世の中に大きな影響を与えてきた彼の活動は、2015年公開のドキュメンタリー映画『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』(ヴィム・ヴェンダース監督)でも詳しく知ることができる。
Luciana Souza – vocal
WDR Big Band Cologne arranged and conducted by Vince Mendoza