ヨーヨー・マによるアメリカーナ作品・第二弾
クラシック音楽に止まらない活躍を見せる“世界一のチェリスト”ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)が、アメリカーナ音楽のバンド、ゴート・ロデオ(Goat Rodeo)との共演第二弾となるアルバム『Not Our First Goat Rodeo』をリリースした。このメンバーでのアルバムは2011年作『The Goat Rodeo Sessions』以来となる。
ヨーヨー・マが奏でるチェロは由緒正しい楽器らしく重厚な響きで、アメリカーナが本来持つ軽く明るいイメージとは対極にあるようにも感じられるが、自在にポルタメント(滑らかに音程を移動すること)が可能な楽器の特性を駆使した演奏でクラシックとはまた一味違う独特の味を生み出すことに成功している。
メンバー全員がグラミー賞受賞歴を有するという稀有なバンドで、緊迫感がありつつも自然体で奏でられる音は、いつまでも浸っていたいと思わせるほど心地良い。
ヨーヨー・マは中国人の両親(父親は中国寧波出身でオーケストラ指揮者/作曲家、母親や香港出身の声楽家)の元、1955年にフランスのパリで生まれた。7歳の時に家族とともにアメリカ合衆国ニューヨークに移住。チェロは4歳から始めており、7歳の頃には既にはジョン・F・ケネディの前で演奏、8歳でレナード・バーンスタインが行ったコンサートに出演するなど注目を集めてきた世界的チェリストだ。ストラディバリウスやモンタニャーナといった古い楽器を愛用し、特にバッハの「無伴奏チェロ組曲」を生涯で3度にわたり録音するなどクラシック音楽を得意としているが、それに止まらずアルゼンチンタンゴやブラジル音楽、“シルクロード・プロジェクト”と呼ばれる民族楽器アンサンブルなど、チェロの可能性を飛躍的に広げてきた。
同時に母国アメリカを象徴する、近年“アメリカーナ”と括られる音楽(カントリー、フォーク、ブルースなどアメリカで生まれ発展したルーツミュージックが混在した音楽)にも注力しており、今作『Not Our First Goat Rodeo』はそのひとつの過程(集大成、というにはまだ早いだろう)と言えそうだ。
移民として米国で育ったアジア人として、世界的に名を馳せ一見順風満帆に見える彼の人生も困難の連続だったのだろうと思う。
ヨーヨー・マは2019年4月13日、国境地帯にある米国テキサス州ラレド市とメキシコ・ヌエボラレド市を繋ぐ橋の前でバッハの無伴奏チェロ組曲第一番を演奏し、そしてトランプ大統領の移民政策を念頭に「文化は橋を作ります。壁ではありません」と力強く語っている。
Yo-Yo Ma – cello
Stuart Duncan – violin, banjo
Edgar Meyer – double bass
Chris Thile – mandolin, fiddle, guitar, vocals
Aoife O’Donovan – vocals