ギター×チェロ×アフリカ音楽
南アフリカの卓越したギタリスト、デレク・グリッパー(Derek Gripper)の新譜『Saturday Morning in Boston』(2020年10月)は、同年2月リリースの全曲ソロギターの前作『A Year of Swimming』の収録曲を、アメリカ合衆国のチェリスト、マイク・ブロック(Mike Block)を迎えたデュオで再録音した作品となっている。
デレク・グリッパーのオリジナルのほか、マリを代表するシンガーソングライターであるサリフ・ケイタ(Salif Keita)のカヴァーを2曲、そしてブラジル音楽ではよく知られる楽器ビリンバウの原型である弓形の楽器奏者、マドシーニ(Madosini)の楽曲のカヴァーも収録。デレク・グリッパーのギターは何の変哲もない普通の6弦のガットギター(クラシックギター)だが、アタックが強くサステインが短い音色からは確かなアフリカの風が吹いてくるようだ。これに絡むチェロのマイク・ブロックの表現力も見事で、アフリカの豊かな情景を描く極上の音楽になっている。
デレク・グリッパー(Derek Gripper)は1977年に南アフリカのケープタウンに生まれた。クラシックギター奏者だが、彼の演奏はアフリカの音楽文化の影響が強く独特の聴き心地がある。
これまでにコラ奏者のタンデ・ジェゲデ(Tunde Jegede)と共演(2017年作『Mali in Oak』)したり、原点のひとつである西洋クラシックのバッハ曲集(2018年作『Bach Sonatas and Partitas』)を出したり、エグベルト・ジスモンチを中心としたブラジル音楽集(2011年『The Sound of Water』)を演ってみたりとジャンルを超えてギター音楽の可能性を追求してきた。
2014年には6弦ギターと10弦ギターを用いて、農薬を一切使わない「自然農法」を提唱し、アフリカでも緑化活動を行った福岡正信氏(1913 – 2008)に捧げた約40分におよぶ大作『Cassette Locale After Masanobu Fukuoka』をリリースしている。
本作においては、個人的にはサリフ・ケイタの名曲(5)「Folon」の素朴で美しいメロディーと、乾いたギター、豊かな倍音を響かせるチェロのデュオ演奏に心を奪われてしまった。言葉には言い表せない、心の奥深くでほのかに感じる郷愁のようなもの…。
これまでクラシックギターでアフリカの音楽が演奏されることはほぼ皆無に等しかったが、彼はその世界に新しいレパートリーを持ち込んだ。異文化を繋ぐギタリスト、デレク・グリッパーはもっと評価されて然るべき音楽家だ。