チャーリー・ハンターが表現する独創的なデルタ・ブルース
私が知っているチャーリー・ハンター(Charlie Hunter)は、見たこともない形の8弦ギターを構え、低音3弦をベースアンプに、高音5弦をギターアンプに繋いでグルーヴィーなベースラインを弾きながら同時にハモンドオルガンのような音色のコードを弾き、ギターソロも弾くという信じられない神業を持つギタリストだった。20年ほど前、メデスキ・マーティン&ウッド(Medeski Martin & Wood)やソウライヴ(Soulive)といったジャムバンドにハマっていた頃、チャーリー・ハンターという存在は唯一無二だった。名盤『Songs from the Analog Playground』(2001年。まだブレイクする前のノラ・ジョーンズも参加している)や、まだ髪がアフロの頃のグレゴア・マレ(Gregoire Maret)が拝めるDVD『Right Now Live!』は本当にたくさん、繰り返し繰り返し観て、聴いた。
ベースとギターを同時に弾くという驚異的なテクニックに感嘆しながらも、DVDでの終演時に8弦ギターをそっと置き、パンデイロを叩きながらステージの裏に去っていく彼はめちゃくちゃかっこよかった。
…それから暫くして、私の中でのジャムバンドの熱い熱いブームはほんの数年で去ってしまい、チャーリー・ハンターの音楽も十数年の間追いかけることはなかったが、偶然に彼が2020年に『Patton in Percussion』という新作をリリースしていることを知り、久々に聴いてみて驚いた。
今作はミシシッピのデルタ・ブルースで知られるチャーリー・パットン(Charley Patton)曲集で、相変わらず一人で演奏するベースとギターが同時に鳴っているが、ギターのサウンドは昔のようなハモンド・オルガンのような音ではなく割と普通の控えめに歪んだエレキギターの音に。どうしてこのような変化が起きたのか気になって調べてみたら、どうやら彼は8弦ギター使いをやめ(手が小さいために第8弦はあまり使っていなかったとのこと)、2006年からは7弦ギターを使いはじめ、同時にハモンド・オルガンを模したサウンドからブルースやジャズのスタンダードなディストーション・サウンドへとスタイルを変容させたようだ。
そしてもうひとつ、本作ではチャーリー・ハンターはギター&ベースの他、ボンゴ、コンガ、カウベル、パンデイロ、シェイカーなど全てのパーカッションの演奏も手がけている。これだけ様々な音が鳴っていながら、実は完全なソロ・アルバムなのだ。タイトルにもあるように、これはチャーリー・ハンターという稀代のギタリストが新たな表現手段としてパーカッションを全面に押し出した作品でもある。
考えてみれば前述の『Songs from the Analog Playground』でも一部の曲でチャーリー・ハンターはパーカッションを演奏していたし(ex. (10)「Percussion Shuffle」)、パンデイロを叩きながらステージを去る演出など、もともとパーカッションは彼の音楽の中で無くてはならないものであり、今作の誕生は必然だったようにも感じる。
アルバムでは(1)「Mississippi Boweavil」や(2)「Pony Blues」といったチャーリー・パットンの名曲を、神業ギター&ベース(繰り返すが、信じられないことにこれを同時に弾いている)と、ラテン気質なパーカッションで、ブルージーなのに陽気な響きのするチャーリー・ハンターの独創的な音楽観に見事に落とし込んでいる。控え目に言っても素晴らしい作品だ。
チャーリー・ハンター。個性的な多弦ギタリスト/パーカッション奏者
ギタリスト/パーカッショニスト/作曲家のチャーリー・ハンター(Charlie Hunter)は1967年ロード・アイランド州生まれ。裕福ではない家庭の出身で、彼の母親は生計を立てるためにギターの修理工房に住み込んでいたため、チャーリーは幼い頃から自然とギターに触れてきた。彼の最初のギターは7ドルで買ったもので、ギターの教師はジョー・サトリアーニ(Joe Satriani)だったという。
18歳で家を出、フランス・パリに一時的に移住しストリートや地下鉄のホームで演奏をした。この時に出会った西インド諸島や西アフリカのミュージシャンとのジャムセッションの経験が、のちに彼のパーカッションへの執着を呼び醒ますきっかけとなったようだ。
帰国後、1993年にデビュー。以降ブルーノートやローパドープなどから20枚以上の作品をリリースしてきている。
彼のインスタグラムのアカウントを覗いて見ると、最近は8弦や7弦どころか普通の6弦ギターも割とたくさん弾いているようで、「どうしてそうなった…?」感も抱いてしまうが、ひとつのスタイルに固執せず、音楽の可能性を探求する中で辿り着いた答えなのだとしたら受け入れるしかないのだろう。
最後に、DTMなどで音楽制作をしている方に朗報。
この『Patton in Percussion』でのパーカッションサウンドは、ロイヤリティフリーのループ素材として販売もされているようだ。
Charlie Hunter – 7 strings guitar, percussion