セルビア出身のラレ・ミチッチ新譜『Only Love Will Stay』
セルビア出身のギタリスト、ラレ・ミチッチ(Rale Micic)の新譜『Only Love Will Stay』がリリースされた。
今作はギターのほか、ジャレッド・ゴールド(Jared Gold)のハモンドB3オルガン、そしてジョナサン・ブレイク(Johnathan Blake)もしくはジェフ・クラップ(Geoff Clapp)のドラムスというベースレスのトリオ編成で、低音はオルガンの左手が担う、所謂“オルガン・トリオ”の編成となっている。
アルバムに収録された8曲のうち、5曲がラレ・ミチッチのオリジナルで、残り3曲がカヴァーとなっている。
(2)「Even Steven」は彼が敬愛する偉大なギタリストで2017年に亡くなったジョン・アバークロンビー(John Abercrombie)の曲。
(3)「How Deep Is the Ocean」は「ホワイト・クリスマス」の作曲で知られるベラルーシ生まれのユダヤ人アーヴィング・バーリン(Irving Berlin)によって作られ、数多くのジャズ・ミュージシャンがカヴァーするスタンダード。
そしてラストの(8)「Lipe Cvatu」はバルカン半島を代表する作曲家ゴラン・ブレゴヴィッチ(Goran Bregovic)がキャリア初期に組んでいたロックバンド、ビィェロ・ドゥグメ(Bijelo Dugme)で発表していた曲だ。
これらの特徴的な選曲や、タイトル曲である(1)「Only Love Will Stay」でみられるバルカンの伝統音楽を意識したジャズとしては異質な曲調など、本作は現代を代表するジャズギタリストのひとりとなったラレ・ミチッチがあらためて自身のルーツを振り返るような一枚。どこか憂いを帯びたギターの音色には滲み出る故郷への想いが見え隠れする。
ジャレッド・ゴールドとジョナサン・ブレイク、ジェフ・クラップの米国勢の演奏も派手さはないが堅実な絡みでアルバムの完成度を極めて高いものにしている。
1975年にユーゴスラビア社会主義連邦共和国(当時)の首都ベオグラードに生まれたラレ・ミチッチ(英語読みでレイル・ミシックなどとも表記される)は地元で名を上げた後、奨学金を得て米国に渡りボストンのバークリー音楽大学で学んだ。その後ニューヨークに移り活動を続け、故郷の名を冠した2006年の2ndアルバム『Serbia』では名トランペット奏者トム・ハレル(Tom Harrell)もフィーチュアし、バルカン音楽の影響も感じさせるしなやかな演奏で高い評価を得た。
Rale Micic – guitar
Jared Gold – organ
Geoff Clapp – drums
Johnathan Blake – drums