いま最も美しい欧州ジャズ。ラーシュ・ダニエルソン“Liberetto”待望の新作『Cloudland』

Lars Danielsson - Cloudland

ラーシュ・ダニエルソン、“Liberetto”シリーズ第4作

スウェーデンを代表するコントラバス/チェロ奏者/作曲家ラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)の“Liberetto”グループでの第4作目となる新譜『Cloudland』がリリースされた。
コアメンバーは前作『Liberetto III』(2017年)と同じで、ピアノにマルティニーク出身のグレゴリー・プリヴァ(Grégory Privat)、ギターにジョン・パリチェリ(John Parricelli)、そしてドラムスには元e.s.t.のマグヌス・オストロム(Magnus Öström)の布陣。さらに数曲で盟友トランペット奏者アルヴェ・ヘンリクセン(Arve Henriksen)と、Liberettoには初参加となるシリアのクラリネット奏者キナン・アズメ(Kinan Azmeh)がゲストとして参加している。

これまでの作品でもヨーロッパ周辺諸国の音楽文化を取り込み、独自の“北欧ジャズ”を築き上げてきたラーシュ・ダニエルソンだが、今作もスケールの大きな傑作に仕上がっている。まずは楽曲の構成力。短調を中心とした親しみやすく美しい曲が多いが、5拍子や7拍子などの変拍子や、中東音楽からの影響もうかがえる旋律の登場などバリエーションも豊かだ。聴けば聴くほどに新鮮で、その独特の澄んだ空気感が心を洗い流してくれる。

(2)「Cloudland」はアルヴェ・ヘンリクセン独特の掠れたトランペットを大々的にフィーチュア。北欧の森や海、自然とそれにまつわる伝承物語が目に浮かぶような素晴らしいサウンド。
アルバムの最初のハイライトは(3)「The Fifth Grade」だろうか。東欧〜中東を感じさせる変拍子が面白い曲で、マグヌス・オストロムお得意の細かくリズムを刻む打楽器の上で繰り出される抒情的なグレゴリー・プリヴァのソロが聴きどころ。後半に施されたリズムの遊びも楽しい。

キナン・アズメのクラリネットがバンドに新しい風を吹き込む(6)「Desert of Catanga」でのエキゾチックな雰囲気もまた魅力的だ。グレゴリー・プリヴァも自身の作品ではまず弾かないであろうスケールを積極的に用い、無国籍感を演出している(この辺のプレイはLiberetto初期のピアニスト、ティグラン・ハマシアンの演奏を思い起こさせる)。シリアの首都ダマスカス出身のキナン・アズメはクラシック、ジャズ、アラブ音楽など幅広く活躍しており、ヨーヨー・マの「シルクロード・プロジェクト」などにも参加しているアーティスト。おそらくラーシュ・ダニエルソンとの共演は今作が初だが、彼の音楽的背景が各メンバーの演奏にも少なからず影響を与えているように聴こえる。マグヌス・オストロムが叩いているのはウドゥ・ドラムだろうか。アフリカの伝統的なダンス音楽にも通じるリズムのトランス感が最高に気持ちいい。

今作でもベースとチェロで歌心のある演奏を聴かせてくれるラーシュ・ダニエルソン。1958年生まれの彼だが、まだまだ音楽への探究心が尽きる気配はない。(10)「Villstad」のラスト約60秒間ではギターソロかと聴き間違いそうな歪んだチェロのソロを披露。さらに(1)「Vildmark」はアルコ(弓弾き)で、(5)「Tango Magnifique」ではピチカート(指弾き)で5弦のダブルベースとチェロのハイブリッドな楽器を初めて弾いている。

前3作もそうだったが、ラーシュ・ダニエルソンのLiberettoの作品は個性と芸術性を兼ね備えており本当に素晴らしい。これは現在のヨーロッパで最も美しいジャズだ。

Lars Danielsson – double bass, cello
Grégory Privat – piano
John Parricelli – guitars
Magnus Öström – drums & percussion

Guests:
Arve Henriksen – trumpet
Kinan Azmeh – clarinet

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ラーシュ・ダニエルソンのLiberettoシリーズのこれまでの3作品は下記記事でまとめて紹介しています。

Lars Danielsson - Cloudland
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