世界最高のミクスチャーバンド「Pinhas and Sons」マニアのこぼれ話

Pinhas&Sons

イスラエルのバンド「Pinhas & Sons」マニアのこぼれ話

ちょうど1年前にピンハス&サンズ(Pinhas & Sons)というバンドを見つけて脳天を打ち砕かれるような大きな衝撃を受けて以来、彼らの2018年のアルバム『מדובר באלבום』をずーっと聴き続けてきた。

朝の気だるい通勤電車で。在宅ワークのBGMで。休日の家族との楽しいドライブでも。ハードワークに疲れ果て、ひとり晩酌に酔うときにも。
どんなシチュエーションで聴いてもすぐにテンションが上がり元気になれるPinhas & Sonsの音楽は生活の良い薬になっていた。ヘブライ語で歌われる歌詞の内容も、あまつさえ曲名の読み方すら分からないのに、だ。
本当に優れた音楽に言葉や文化の壁など存在しないというのは真実だと思う。

彼らの曲はすごく爽やかでポップで楽しいのに、プログレ由来のゴリゴリの変拍子やイスラエルやアラブの伝統音楽を自然に取り込んだ聴いたこともないような斬新なメロディーがあり、さらにフラメンコやサンバ、ジャズもある多様な音楽性がとにかく凄いのだ。
音楽的にとても難しいことを涼しい顔して大編成のアンサンブルでやってのけるメンバーの圧倒的な演奏力。
彼らの音楽に出会って以来、ほかにもこんな凄い連中がどこかにいないものかと世界中のアーティストを探し回ってきたが、いまだに彼らを超える者は現れていない。

Pinhas & Sons をまだ聴いていない方は、ぜひ先に紹介記事を読んでほしい。

Pinhas & Sons 初紹介記事
バンドのリーダーであり、鍵盤奏者/作曲家オフェル・ピンハス(Ofer Pinhas)へのインタビュー記事

上の記事はほとんど1年前、まだバンドを知ったばかりに書いたものなので、その後聴き続けてきた中で新たに分かってきたこともたくさんある。なんせ元の情報源がほとんどヘブライ語ばかりなので検索のハードルは高いが、そこは彼らのことをもっと知りたい!という想いだけで乗り越えてきた(マニアとはそういうものだ)。

…で、今回はせっかくなのですっかりハマってしまったPinhas & Sonsに関するマニアックな深掘りを紹介していきたいと思う。私のTwitterをフォローしてくださっている方なら、その都度興奮気味にツイートしてきた情報も多いのであまり目新しいことはないかもしれないが、こうしてまとめておくことは多分、無駄ではないだろう。

最高のヴォーカリスト、ノア・カラダヴィド

Pinhas & Sons の魅力のひとつがヴォーカルのノア・カラダヴィド(Noa Karadavid, נועה קרדוד)の圧倒的な歌唱力だと思う。
彼女は2015年のPinhas & Sonsのファーストアルバム『מטאפורות זולות על אהבה』では歌っておらず、2018年の2ndからバンドに参加。イスラエルの名門音楽校・リモン音楽学校で声楽を学んだという良く伸びる高音、素直で安定した音程、美しい声質などどこをとっても最高のヴォーカリストであることは間違いない。

普段はクラシックの合唱団で歌ったり、ヴォーカルの教師としても自宅で生徒たちにレッスンをしているようだ。
あまり彼女に関する情報は発信されていないが、興味深い動画をいくつか見つけたので紹介しておきたい。

6歳の頃のノア・カラダヴィド

ノア・カラダヴィド自身のYouTubeチャンネルには、幼い頃にイスラエルの著名な歌手ヤルデナ・アラジ(Yardena Arazi, ירדני ארזי)と一緒に歌う映像がアップされている。とても6歳とは思えない本格的な歌唱力。この頃からやはり、只者ではなかった。

6歳の頃のノア・カラダヴィド。
『ガーデン・パーティー』という番組で歌手ヤルデナ・アラジと共演していた。

ヴォーカル・オーディション番組にも出場

ノアはPinhas & Sons加入前、イスラエルのヴォーカル・オーディション番組『イスラエルの声』にも出場。これはファイナルの直前の映像のようだ。

Pinhas & Sons 加入前、ヴォーカル・オーディション番組での痺れる歌唱

Pinhas & Sons 加入のきっかけはシシェットの曲のカヴァー

Pinhas & Sonsのリーダー、オフェル・ピンハスはインタビューの中でノアがバンドに加入した経緯について、「シシェットのフルートソロを歌っているのを聴いたのが強く印象に残っていて誘ってみた」ということを言っていたが、おそらくそれはこの歌唱のことだろう。

イスラエルの伝説的バンド、シシェット(Shshet)の曲を歌うノア。
この間奏部(原曲はフルートソロ)でのスキャットを聴いて、オフェル・ピンハスは彼女をバンドに誘った。

ヨゲフ・ガバイによるリズム解説

超絶テクニックのドラマーとして知られ、YouTubeでプログレやメタルの様々な楽曲のリズムの解説もしているヨゲフ・ガバイ(Yogev Gabay)が、Pinhas & Sonsの曲「פשוט(Pashut)」を丁寧に解説している。1小節の中に16分音符が20個あるこの曲のリズムが持つ魅力と魔力がよく分かる動画だ。

ちなみにこの曲のタイトルはヘブライ語で「Simple」の意味(どこがシンプルなんだろう…)。

Pinhas & Sonsの曲が持つリズムの魅力に取り憑かれたなら必見の動画。

彼らの曲を演奏したい?公式サイトにスコアがあるよ!

音楽家なら(そうでなくても好奇心が旺盛であれば)、複雑で楽しいPinhas & Sonsの楽曲の構造に興味を抱くはず。だがこれを耳コピするのはちょっと大変そう…
そんな時は手っ取り早くバンドの公式Bandcampページから楽譜(シートミュージック)を買うこともできるが、実はPinhas & Sons公式サイトにも楽譜が公開されている。世界最高の音楽を研究する一助になるはずだ。

はい、それは絶望的です…

ブラジルの鬼才音楽家エルメート・パスコアールにインスパイアされたという2ndアルバムを締め括る名曲「כן זה חסר סיכוי אני יודעת אך ביני לבין עצמי הכל מותר(はい、それが絶望的であることは知ってるけど、自分の中では全て許されています)」は、遠い相手に叶わない恋をしてしまった少女の物語だ。
この曲はイスラエルの人気SSWガイ・マジグと共演したアルバム収録バージョンと、それに先立って収録・公開されたシングル版ではアレンジが少し異なっている。

シングル版のラスト1分間のアレンジが異常に凄くて、通常の4/4拍子から7/16拍子を7小節、6/16拍子を6小節、5/16拍子を5小節、4/16拍子を4小節…と徐々にそのリズムが規則的に詰まっていく。
まさに演奏者にとっては絶望的な譜面である。

シングル版の「כן זה חסר סיכוי אני יודעת אך ביני לבין עצמי הכל מותר」
曲のアウトロの絶望的なリズムに注目してほしい。

日本の古い歌謡曲との奇妙な接点

イエメン系ユダヤ人の人気歌手シラン・アヴラハム(Shiran Avraham)をゲストに迎えた古い曲「שני שושנים(二本のバラ)」のラストで聴かれるフルートの一節は、日本の昭和を代表する歌謡曲である中林ミエ作詞作曲「赤い花白い花」のメロディーにインスパイアされたもの。オフェル・ピンハスのガールフレンドが子供の頃に合唱団で日本の曲(「赤い花白い花」や「会津磐梯山」など)を歌っていたため、似たテーマのこの曲のアレンジに組み込んだようだ。

ユダヤの「2本のバラ」は一緒に生まれ育ってきた白と赤の2本の薔薇の物語で、ある日そのうちの1本が摘まれてしまい、残された1本の薔薇の心の中の悲しみを描いたという抒情的な歌。中林ミエの「赤い花白い花」は花を摘んで大切な人に渡すという人間視点の歌だが、イスラエルの「2本のバラ」の方は摘まれてしまった花側の視点なのが面白い。
ちなみに「2本のバラ」は1943年に作曲されイスラエルで大ヒットしたが、中林ミエはその翌年1944年に群馬県に生まれている。

ピンハス&ソンズ版の「2本のバラ」。
2:56からのフルートのメロディは日本の歌謡曲「赤い花白い花」から着想を得たもの。

狂気のダンス

Pinhas & Sonsの人気曲「מחול הטירוף(狂気のダンス)」は2013年にユーロビジョン・ソング・コンテスト(欧州圏では知らない者のいない毎年恒例の歴史ある音楽コンテスト。EBU欧州放送連合加盟各国から代表1組のアーティスト/曲が選出され、投票によって優勝を競い合う)のイスラエル国内選考に応募されたが、その結果は審査員の鑑識眼のなさを証明しただけであった。

ライヴで盛り上がる「מחול הטירוף(狂気のダンス)」

ベースとドラムはバンド掛け持ち

Pinhas & Sonsのベース奏者、リオール・オゼリ(Lior Ozeri)は「Square To Check」「Heathens」「Anakdota」などを、そしてドラムス奏者シャロン・ペトロヴェル(Sharon Petrover)は「Square To Check」「Project RnL」といったバンドを掛け持ちしている。

新作はいつ?

前作が2018年リリースなので、ファンとしてはそろそろ新譜を出してほしいところ。
昨年秋にオフェル・ピンハスに尋ねてみたら、2021年の早いうちにリリースをしたい、今は新型コロナが収束するのを待っている、ということを言っていたが…。
2021年4月に公開されたヨゲフ・ガバイによるオフェル・ピンハスとリオール・オゼリとの対談動画の中では、現在楽曲をじっくりと“料理中”で「今年のうちに…」と言及されている。

ヨゲフ・ガバイによるPinhas & Sonsの二人へのインタビュー動画。

日本で紹介されたPinhas & Sons

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