サーシー・シャローム、盤石のバンドで奏でる最新作
イスラエル出身、ニューヨークで活動するピアニスト/作曲家のサーシー・シャローム(Sasi Shalom)の2021年新譜『Nedyaj』。これはかなり面白い作品だ。30年におよぶ長い活動歴を誇りながらもほぼ無名の音楽家による、現代のイスラエル製ニューヨーク・ジャズの的を射た優れた作品であることは間違いない。
アルバムにはノルウェー出身のサックス奏者オレ・マティセン(Ole Mathisen)、カリフォルニア出身のサックス奏者ダニー・マッキャスリン(Donny McCaslin)、ドイツのベース奏者カイ・エックハルト(Kai Eckhardt)、イスラエルのギター奏者オズ・ノイ(Oz Noy)、キューバ出身のドラム奏者オラシオ・エルナンデス(Horacio “El Negro” Hernandez)、メキシコ出身のドラム奏者アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)など錚々たるメンツが並ぶ。曲ごとに編成を変えて演奏されるのは全てサーシー・シャロームのオリジナルで、楽曲の構成美・アレンジも見事。自由なソロの余地もふんだんに残しながらテーマの部分は緻密に作曲されており、ピアノのみならずシンセやヴォコーダーの扱いも隙がない。
アルバムに収録された曲はどれもかっこいい。ベテラン勢多数参加のテクニカルな演奏もさることながら、近年のニューヨークのジャズシーンで活躍するイスラエル勢──例えばエイタン・ケネル(Eitan Kenner)らとの近似性や、イスラエル的SFの要素を感じさせるサウンド作りがとても素晴らしく、ロマンを掻き立てられる。
おすすめはラージ・アンサンブル的な複雑で魅力的な展開をみせる(1)「Nedyaj」、抒情的なジャズ・フュージョンにオズ・ノイの個性的なギターが全面的に絡む(6)「Destiny Hills」、フレットレスベースやシンセのサウンドにウェザーリポートを彷彿する(4)「For the Smile」など。
サーシー・シャローム、その経歴には謎も多い
サーシー・シャロームは1990年にアルバム『Modus』でデビュー。直後にイスラエルを離れ米国ボストンのバークリー音楽大学に入学し、以降は米国で活動をしているようだ。
それにしてもこのサーシー・シャローム、これだけの音楽性の高い作品を出していながら、webには圧倒的に情報が少ない。30年もの芸歴を誇り、アルバムも5枚以上出しているはずなのに、どうやら相当なバイク好きであることくらいしか分からなかった。音楽面ではビル・エヴァンスやキース・ジャレット、さらにウェザーリポートに影響を受けたようで今作でもその一端は垣間見える(特にウェザーリポートからの影響は濃い)ものの、それ以上に常に時代にアジャストし新しい音楽も取り入れる鋭い感性も持ちあわせている優れた音楽家だと思う。
Sasi Shalom – piano, keyboards
Ole Mathisen – saxophone (1, 2, 7, 8, 9)
Gary Thomas – saxophone (5)
Teodross Avery – saxophone (3)
Donny McCaslin – saxophone (4, 10, 11)
Oz Noy – electric guitar (6)
Matthew Garrison – bass (1, 3, 5, 8, 11)
Richard Hammond – bass (2, 7)
Arie Volinez – bass (6)
Kai Eckhardt – bass (4, 10)
Horacio El Negro Hernandez – drums (1, 2, 5, 7, 8, 9, 10, 11)
Antonio Sanchez – drums (3)
Davide Pettirossi – drums (6)
Gilad Dobrecky – percussion (4, 11)
Bodi Shalom – vocals (1)