イスラエルの鬼才クリエイター、ニル・ヤニヴ
作曲家、ベーシスト、ヴォーカル・パフォーマー、SF作家、映画作家、編集者、プログラマーなどマルチな才能を持つイスラエルの鬼才ニル・ヤニヴ(Nir Yaniv, ヘブライ語:ניר יניב)の2018年※作『The Voice Remains』はプログレばりの変拍子のリズムに怒涛のヴォイス・アンサンブルが折り重なる驚異的な音楽作品だ。
(※2021/5/12追記:本作は当初EPとしてリリースされたが、2021年に楽曲を追加しフルアルバムとして再リリースされている)
楽曲は複雑な構成でテクニカルだが、決して難しく聴こえるものではなく、遠く離れた星々への旅や自分自身の探究といった普遍的なテーマが冒険心をくすぐる。
本作はニル・ヤニヴによるヴォーカルと、人気ジャズピアニスト、山中千尋との共演でも知られる女性ドラマー、カレン・テパーバーグ(Karen Teperberg)によるドラム&パーカッションのみで作られているが、ニル・ヤニヴの幾重にも重ねられた声はキーボードやベースの役割も果たし(Polyverse Music社のヴォーカル・トランスフォーミング・プロセッサーである「Manipulator」を使用している)、とても元が人の声と思えない表現力で迫ってくる。さらにSF作家らしくミュージック・ヴィデオ(MV)も凝ったアニメーション短編作品となっており、アルバムの世界観を表現。
まずはPart.1、(1)「Memories of a Third Planet」
ニル・ヤニヴ(Nir Yaniv)は1972年、イスラエル・テルアビブ生まれ。
楽曲制作や録音は“The Nir Space Station”と名付けられた自前のスタジオで行っており、2001年にギター、ベース、ドラムスのパワートリオで“イスラエル初にして唯一のサイエンス・フィクション・ロック”と自称するアルバム『The Universe in a Pita』を発売。
2007年の2ndアルバム『Funkapella』は今作同様に声とドラムスだけで作られた作品だが、ヘブライ語の歌詞で歌われている。
作家としての経歴は2000年にイスラエルSF&ファンタジー協会によるSFウェブマガジンを創刊、7年間編集長を務めたあと、2007年にイスラエルで唯一の紙媒体SF&Fマガジンである「Chalomot Be’aspamia」の編集長になった。この間に自身の短編集や、様々な刊行物にコラムや書評などを提供。2013年からは作家・監督として短編映画の制作にも携わっている。
2017年からは米国ロサンゼルスに移住し、活動している。
ニル・ヤニヴの作家としての作品は2020年に発売され話題となったイスラエルSF短編作品集『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』(竹書房文庫)に、20ページほどの短編小説「信心者たち」が収録されており、日本語で読むことができる。


Nir Yaniv – vocals
Karen Teperberg – drums & percussion