伝統に根ざした深く美しいモンゴル発のジャズ。Enji『Ursgal』

Enji - Ursgal

深く美しいモンゴル発のジャズ。Enji『Ursgal』

モンゴル出身、現在はドイツ・ミュンヘンを拠点に活躍するジャズシンガー、エンジEnji)の2ndアルバム『Ursgal』は、彼女自身初のオリジナル曲を中心としたアジアの伝統を感じさせる美しいアルバムに仕上がっている。

今作はエンジの歌とギター、ダブルベースの3人編成を軸としており、どこか懐かしさも感じるモンゴルの伝統音楽とジャズが絶妙なバランスで混ざり合う温かみのある音が心に響く。前作と違い、ドラムレスという選択は彼女の個性を強調する上で正しい選択であることはアルバム冒頭の(1)「Zavkhan」を聴けば明らかだ。彼女の父親が育った地ザブハンをタイトルに冠したこの曲は、音楽を探究するためにミュンヘンに渡ることを支え、後押ししてくれた父親への最大限の愛情を表している。日本と同じように、家族に対する直接的な愛情表現をあまり行わない彼女らしい愛らしい表現に、奥ゆかしい美しさを感じる。

続く(2)「Diary of June 9th」なども含め、今作収録の多くの曲はEnji自身にとって初挑戦となる作詞作曲だが、偉大なモンゴルの作曲家の曲集であった前作よりも彼女の魅力が感じられる作品になっているように思う。どの曲も穏やかで大らかで、彼女の心の中に広がる美しい風景が感じられるのだ。

ジャズスタンダードの(4)「I’m Glad There Is You」は街の雑踏の音を背景にEnjiによるアカペラ歌唱がとても魅力的だ。

ギター + ベースのバックバンドがEnjiの歌唱を引き立てる

ぴったりと彼女の歌に寄り添うギターはドイツ・ミュンヘンの人気新世代バンド、フェイザー(FAZER)でも活躍するポール・ブランドルPaul Brändle)。太く包み込むダブルベースはモンゴル出身のムングントフチ・ソルモンバヤル(Munguntovch Tsolmonbayar)が弾いている。とにかくこの二人の演奏が全編を通して素晴らしく、Enjiの歌とあわせアルバムの大きな魅力となっている。

数曲でサックスのモーリッツ・スタルMoritz Stahl)とトロンボーンのアリスター・ダンカンAlistair Duncan)も参加し彩りを添える。

Enji『Ursgal』のEPK

Enji プロフィール

Enjiことエンカルジャール・エルクヘンバヤル(Enkharjal Erkhembayar)は1991年モンゴル・ウランバートル出身。労働者階級のゲル(パオ = 移動式住居)に生まれ、音楽やダンス、文学が好きで当初は音楽教師を目指していたが、ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ政府が設立した国際文化機関)がモンゴルで提供していたジャズ教育プログラムがきっかけとなりジャズ・アーティストの道へ。ピアニストになりたかった彼女はオーディションでピアノの弾き語りを披露したが、どういうわけか歌手としてミュンヘンに渡ることに。

2017年にモンゴルを代表する作曲家センビーン・ゴンチグソムラー(Semblin Gonchigsumlaa)の曲集『Mongolian Song』でデビュー。これは日本でも話題となった。

ハンブルクでのライヴ演奏動画。

Enkhjargal Erkhembayar – vocals
Paul Brändle – guitar
Munguntovch Tsolmonbayar – double bass
Moritz Stahl – tenor sax (1, 9)
Alistair Duncan – trombone (6)

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