モンゴル出身歌手Enji、ジョアナ・ケイロスも参加したアジア的抒情の傑作ジャズ・ヴォーカル作

Enji - Ulaan

モンゴル出身歌手エンジの3rdアルバム『Ulaan』

モンゴル出身の歌手エンジ(Enji)が待望のサードアルバム『Ulaan』をリリースした。

前作から引き続きミュンヘンのジャズ・クインテット「Fazer」のポール・ブランドル(Paul Brändle)がギターを、モンゴル出身のムングントフチ・ソルモンバヤル(Munguntovch Tsolmonbayar)がダブルベースを担当。この二人の温かみのあるサウンドが楽曲をしっかりと支えつつ、今作ではブラジルの前衛ジャズ・グループ「Quartabe」のクラリネット奏者ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)とドラムス奏者マリア・ポルトガル(Mariá Portugal)が全面参加し、アジア的な雰囲気のソングライティングとブラジルの洗練された現代ジャズのエッセンスが魔法のように融合。前作を上回る素晴らしい作品に仕上がっている。

収録曲はモンゴルの伝統曲のカヴァー(4)「Temeen Deerees Naran Oirhon」と、ジョアナ・ケイロス作曲の(9)「Enconto」を除きエンジとポール・ブランドルによるオリジナル。

多くは母国モンゴルの言葉で、そして時にはスキャットも歌うエンジの美しい声は最小限の編成によって豊かに響き、リスナーにとっては心の落ち着く音楽体験をもたらしてくれる。ゲストでトランペット奏者マティアス・リンデルマイヤ(Matthias Lindermayr)が参加した(2)「Taivshral」や、表題曲(6)「Ulaan」など洗練された室内楽的ジャズは楽曲も演奏も素晴らしく、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)やベッカ・スティーヴンス(Becca Stevens)ら現代ジャズ最高峰の歌手とも比肩する。

(8)「Picture / Three Shadows」

そして何よりも、アルバム全編に漂うアジア的な温かさ、柔らかさが堪らない。

彼女の国際的な活躍は、まだあまりジャズが浸透していないというモンゴルの音楽シーンをも活性化させるかもしれない。

Enji プロフィール

Enjiことエンカルジャール・エルクヘンバヤル(Enkharjal Erkhembayar)はモンゴルの首都ウランバートルに1991年に生まれた。
労働者階級のゲル(パオ = 移動式住居)の出身で、幼い頃からモンゴルの民謡と民族舞踊の伝統を学んだ。音楽やダンス、文学が好きで当初は音楽教師を目指していたが、ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ政府が設立した国際文化機関)がモンゴルで提供していたジャズ教育プログラム「Goethe Musiklabor Ulan Bator」がきっかけとなりジャズ・アーティストの道へ進み、ドイツのミュンヘンに渡り歌手としての本格的な活動を開始した。

2017年にモンゴルを代表する作曲家センビーン・ゴンチグソムラー(Semblin Gonchigsumlaa)の曲集『Mongolian Song』でデビュー。これはドイツの公共放送Deutschlandfunkにより“ジャズとフォークとモンゴル歌の伝統とのユニークな混合”と絶賛されるなど話題に。2022年には主に自身の楽曲を収録したセカンド・アルバム『Ursgal』をリリースしている。

Enkhjargal Erkhembayar – vocals
Joana Queiroz – clarinet, bassclarinet
Paul Brändle – guitar
Munguntovch Tsolmonbayar – bass
Mariá Portugal – drums
Matthias Lindermayr – trumpet (2)

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