アナット・コーエン×マルセロ・ゴンサルヴェスのデュオによる南米音楽集
イスラエルのクラリネット奏者アナット・コーエン(Anat Cohen)と、ブラジルの7弦ギタリスト、マルセロ・ゴンサルヴェス(Marcello Gonçalves)のデュオ作『Reconvexo』。このデュオとしては2017年のルシアール・サントス曲集『Outra Coisa: The Music of Moacir Santos』以来の2作目となる。
ミルトン・ナシメントやジョビン、ジルベルト・ジルといったブラジルの作曲家の作品を軸に、ジャズとショーロのちょうど真ん中のような心地良く紡がれる丁寧な即興音楽だ。
個人的なハイライトはミルトン・ナシメントの(5)「Maria Maria」。
イントロはギターのみで、ベース音が変わらずオンコードで緊張感のある演奏で引っ張る。1分10秒過ぎに初めてベース音が下降し、直後に美しいアルペジオが現れるところに痺れる。原曲も大好きだが、このアレンジも7弦ガットギターの低音の豊かな響きが最大限に発揮されていて素晴らしいと思う。クラリネットは2分20秒頃、楽曲のブリッジに至ってようやく登場するが、その後ヴァースに戻るところで徐々にリタルダンドし抒情的に。このような細やかなアレンジが原曲へのリスペクトを感じさせてくれる。演奏は8分に及ぶが、その中で様々な表情を見せてくれる名演だ。
今作のタイトル曲(1)「Reconvexo」はカエターノ・ヴェローゾが妹マリア・ベターニアに提供した名曲。バスクラリネットが多重録音されており、陽だまりのような温かさを感じさせる。
ブラジル音楽、とりわけショーロはアナット・コーエンが2000年に初めてリオデジャネイロを訪れて以来、ほとんど彼女のライフワークのようになっている。この作品は、数々のセッションや録音を経て南米に豊かな人脈を築く現代最高峰のジャズ・クラリネット奏者の新たな傑作に数えられるべき素晴らしい作品だ。
Anat Cohen – clarinet
Marcello Gonçalves – 7-string guitar
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