兄ミラバッシ新譜は二人のギター奏者と。欧州〜南米を繋ぐ美しすぎる音の旅

Gabriele Mirabassi - Tabacco e Caffè

2本のギターに乗せて歌うガブリエレ・ミラバッシのクラリネット

クラリネット奏者ガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)、ギタリストのナンド・ディ・モドゥーニョ(Nando Di Modugno)、そしてバス・ギターのピエルルイジ・バルドゥーチ(Pierluigi Balducci)の3人による極上のアルバムが届いた。クラシックのバックグラウンドを共通して持ち、個性的なジャズ・アーティストとして活躍するこのイタリアの3人による共演は2015年作『Amori sospesi』以来となる。

今作『Tabacco e Caffè』はブラジルの作曲家/ギタリスト、トニーニョ・オルタ作による爽やかなブラジリアン・ジャズ(1)「Party in Olinda」で幕を開ける。ピエルルイジ・バルドゥーチのバス・ギターが低音で陽気なグルーヴを支え、ナンド・ディ・モドゥーニョの乾いたギターは後半部ではカヴァキーニョのようなカッティングも。その上で文字通り自由に踊るミラバッシのクラリネットは青空を突き抜けるようだ。楽しさ、美しさ、ほんの少しの寂しさ…そうした人生の全てが詰まったこの曲を、ブラジルへの憧れと共に3人のイタリア人は完璧に演奏してみせる。

同じくブラジル勢からはエグベルト・ジスモンチの(5)「Frevo」、ギンガの(6)「Ellingtoniana」、そしてシコ・ブアルキ&エドゥ・ロボの(9)「Choro Bandido」といった楽曲も取り上げられ、この辺はこれまでもブラジル音楽に深く傾倒してきたミラバッシらしい選曲と演奏だ。

特筆すべきは米国の映画音楽家ヘンリー・マンシーニ作の(4)「Two for the Road」。これはオードリー・ヘプバーン主演映画『いつも2人で』のメインテーマで、当時マンシーニは多忙で作曲の依頼を断ったが、映画の脚本をえらく気に入っていたオードリーが直接マンシーニに電報で頼み込み、起用が実現したというエピソードつきの曲だ。ここでは繊細な2本のギターが美しく絡み合い、ミラバッシの表現力豊かなクラリネットが長い人生を共に歩んできた夫婦の心の機微を見事に歌い上げる。

『Tabacco e Caffè』の短編ドキュメンタリー。
ガブリエーレ・ミラバッシの言葉の隅々には音楽への深い愛情が詰まっている。

本作の表題曲(7)「Tobaco Y Cafè」はピエルルイジ・バルドゥーチ作曲。南米原産のタバコと、アフリカ原産のコーヒーは交易によって世界中に広り多くの人々を魅了し、多くの国で経済や産業の基盤となった。コーヒーがアフリカからブラジルに伝えられなければサンパウロは現在のような大都市にはなっていなかっただろうし、葉巻タバコがヨーロッパに渡っていなければ社交文化は違っていたものになっていたかもしれない。両者ともに弊害が語られがちだが、ともに人々を結びつけるという意味においては歴史的に重要な役割を担ってきたものでもある。この楽曲はそんな風情をどこかユーモラスに描き出している。

ガブリエーレ・ミラバッシ略歴

クラリネットのガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)は1967年イタリア・ペルージャ生まれ。チェンバー・ジャズの第一人者としてこれまでに数多くのアルバムを発表しており、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、スティーヴ・スワロウ(Steve Swallow)、ジョン・テイラー(John Taylor)といった国内外の著名アーティストとの共演も多数。イタリアを代表するジャズレーベル、EGEAの看板アーティストとして知られている。

ブラジル音楽にも強く傾倒し、これまでにギタリスト/作曲家のギンガ(Guinga)や、ピアニスト/作曲家のアンドレ・メマーリ(André Mehmari)、ギタリストのセルジオ・アサド(Sérgio Assad)といったブラジルを代表する音楽家たちとアルバムを制作してきた。
実弟は人気ピアニストのジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)。

Gabriele Mirabassi – clarinet
Nando Di Modugno – classical guitar
Pierluigi Balducci – classical bass guitar

関連記事

Gabriele Mirabassi - Tabacco e Caffè
最新情報をチェックしよう!