粗削りな中にも、見せる大きな期待感。
アシッド・ジャズの生みの親で、ジャミロクワイ(Jamiroquai)をはじめ、インコグニート(Incognito)、ガリアーノ(Galliano)を輩出したジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)主宰のBrownswood Recordingsから今年デビューした英国発マンチェスターのバンド、シークレット・ナイト・ギャング(Secret Night Gang)のデビュー作にして、名刺代わりのセルフタイトル作。
だが、ジャイルス門下ということで大いに期待していたものの、大きな印象を残すに至らなかったというのが正直なところだ。
(1)「Lonely」で派手なファンクを披露した後は、しっとりとしたバラードが続いていく。もちろんヴォーカルのケマニ・アンダーソン(Kemani Anderson)のソウルフルな歌い口はとても新人バンドのそれとは思えないし、キャラム・コネル(Callum Connell)のエモーショナルなサックスや本作に参加しているジャック・ダックハム(Jack Duckham)の心地よい跳ねたギターは間違いなく及第点を超えてきているのだが、このあたりの70年代ソウルバラードのアップデートは既にエリック・ベネイ(Eric Benet)が『Lost In Time』という素晴らしい作品を残しており、全体的に既聴感のある内容となった。
ではなぜ、この作品を推すのか。
(5)「You Are My Love」から(6)「Journey」の一連の流れに可能性しか感じなかったからである。前者はマイク・ウィルソン(Myke Wilson)のタイトなドラムに引っ張られるように緊迫感のある展開が続いていく素晴らしいファンク。それでいて気持ちよく歌うケマニの歌声とサックスの音色はどこまでも爽やかで心地よく、まさに音楽の楽しさを教えてくれる。
勢いそのままに後者ではリズム隊が強靭なグルーヴを作り出し、その中で自由に泳ぐサックスやキーボードは有機的で、生き物のような力強い生命力すら感じた。
力があるのは間違いない。
バラードも非常にキレイにかっこよくまとまっている。
ただ、彼らには強靭なファンクという素晴らしい武器がある。
カッコつけず、ファンクで突き抜けた彼らの音楽を聴いてみたい。
大いに期待の出来る新人バンドの誕生である。
プロフィール
ソウルフルなヴォーカルで魅了するケマニ・アンダーソンと、切れのあるサックス奏者として一目置かれるキャラム・コネルの2人が率いるマンチェスター拠点のバンド。マンチェスターのジャム・セッション・シーンで経験を積みあげた彼らは、暗闇のなか閉鎖したままのオールド・トラッドフォード(マンチェスター・ユナイテッドFCの本拠地)でジャムセッションを行い、そのときの経験から自分たちのバンドを名付けたという。クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)といった様々な音楽的影響を色濃く残しながらも現代風にアップデートした音楽センスは、今後も注目。