『&chill』シリーズの一部がヴァイナルでリリース。ゲームがいざなう極上のチルアウト。

クールジャパンに対する米国からの回答

開会式での故すぎやまこういち氏のドラゴンクエスト序曲「ロトのテーマ」が世界中で絶賛された2021年東京五輪。我々が思っている以上に、日本のゲームが”クールジャパン”として世界に浸透していることの証左になった昨年の一大トピックであるが、それより前に日本のゲームに熱視線を送っていたレーベルが米国にあった。それが『& chill』シリーズをリリースしつづけているGame Chopである。

これまでにも『Zelda & Chill』『Poke & Chill』、先週1月7日にリリースされたばかりの最新作『Chocobo & Chill』や『Chilltendo』(!)などのラインナップがある中、昨年12月末にヴァイナルリリースされた本作『Samus & Chill』は、特に北米で人気の任天堂のゲームシリーズ「メトロイド」にインスパイアされたLO-FI ヒップホップアルバムだ。
アニメーションやゲームのリミックスアルバムとしては、Daishi Danceがジブリの楽曲を全編ハウスリミックスした2008年作『the ジブリset』が有名だが、一方で誰もが知っている楽曲のリミックス作品は聴く側にとっては原曲のイメージが強く、作る側にとっても原曲の要素を残さなければならないという意識から、かなり難しいジャンルであることは想像に難くない。
ただ、「メトロイド」で遊んだことのない筆者としては、逆にそういったフィルターを抜きにして、純粋に音を楽しむことが出来たというのが率直な感想である。

『Chocobo & Chill』より(1)「The Prelude」。あの有名なクリスタルのテーマがこんなにもオシャレに。

ピアノの静かな音色から始まる(1)「Theme of Sumus」を筆頭に、実直とも言えるHipHopのビートと、恐らくゲーム内で使われていたのであろうメロディをポワンポワンとしたシンセサイザーが表現する様は、まさに『& Chill』を冠するにふさわしい完全なるチルアウト空間を我々に提供してくれる。

(2)「Lower Brinstar」。ジャケットは可愛らしいが、流れる音楽は極めてChillin’

また作品によって違うアーティストがリミックスを手掛ける『& Chill』シリーズにおいて、本作はLAを拠点に活動するプロデューサーTune In With Chewieを起用。自身の2019年作『Memory Lane』も心地よくレイドバックした音像がノスタルジックを誘う良作であったが、そこで見せた手触りや浮遊感そのままにゲーム音楽をここまでアーティスティックに昇華した手腕は見事としか言いようがない。

全体を包むアンニュイな雰囲気は原曲が元々持っているものなのか、はたまた本作特有の空気なのか筆者にはわからないが、少なくとも本作がクリエイティビティに溢れたものであることは確かだ。

是非、原曲を知る「メトロイド」ファンにも、Jazzy HipHopファンをはじめ、アンビエントやエレクトロニカサウンド界隈のファンにも一聴してもらいたい。

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