【インタビュー】イスラエルジャズを織り込む日本発の超絶ピアノトリオ、niskhaf

Niskhaf - Thirst

イスラエル音楽にインスパイアされたピアノトリオ、niskhaf デビュー

niskhaf

イスラエルジャズにインスパイアされた日本のピアノトリオ、niskhaf(ニスカフ)が待望のデビューアルバム『thirst』をリリースした。

アルバムでは変拍子や中東音楽に影響を受けた旋律などイスラエルジャズの要素が特徴的な個性として強く現れている一方で、ヨーロッパのジャズ文化に通じる美しい叙情性や、ふとした瞬間に断片的に顔を覗かせる日本人らしい感性(ジブリなどの日本の映画音楽からの影響も少なからずありそう)も組み合わさった、緩急自在の素晴らしい演奏が次々と繰り出される。個性・創造性・演奏技術の三拍子が揃った、日本で今もっとも注目すべきバンドによる渾身の作品だ。

niskhafは静岡県出身のベーシスト細谷紀彰 (Noriaki Hosoya)、三重県出身のピアニスト藪野遥佳(Haruka Yabuno)、そして東京都出身のドラマー中山健太郎(Kentaro Nakayama)のピアノトリオ。
バンド名のniskhafとはイスラエルの公用語・ヘブライ語で「漂う」と意味で、常に理想の音を探求する彼らの姿勢を表している。複雑なリズムと自然な感情の赴きに任せた三位一体の演奏は緻密でいながら野生味もあり、ここ数年でジャンルとして確立された感のあるイスラエルジャズの魅力を存分に伝えてくれる。

物語性が強くドラマチックな展開にわくわくする冒頭(1)「Prayer」、奇数拍子でアヴィシャイ・コーエンの音楽を彷彿させる王道イスラエルジャズ(2)「Dizengoff」や(9)「Longing II」、両手で自由にアドリブする藪野のピアノや6弦ベースならではの広い音域での細谷の流麗なソロが存分に楽しめる(3)「From What I’ve Heard」などなど、どれも楽曲の構成力に優れ聴き応えたっぷり。

アルバムの中でも特に“イスラエルジャズ”の要素が濃厚な(9)「Longing II」。3人のクリエイティヴな音の会話にも注目

メンバーそれぞれが海外で活躍したあと、図らずも新型コロナウイルスによるパンデミックの影響もあって2020年に東京で結成されたniskhaf。ベーシストの細谷とピアニストの藪野が長年アイディアを温め続けてきたプロジェクトだというが、ついに結実した今作はグローバルな視点から音楽を見渡し、自らの感性に融合させ、そうして培ってきた情熱をアンサンブルの中で真っ直ぐにアウトプットし表現しようとする彼らの熱い想いがぎっしりと詰まった作品だと感じた。
彼らの独創的な音楽がこれから日本のジャズの進化にどのような影響を与えていくのか、とても楽しみだ。

今回は作品をより深く楽しむために、niskhafの3人に直接話を伺ってみた。

niskhaf インタビュー:結成のきっかけや音楽への想い

── このトリオ結成のきっかけを教えてください。

細谷 2020年秋にハンガリー・アメリカ・⽇本(僕)のバンド「Swansong」での⽇本ツアーを予定していたのですが、コロナによりメンバーの来⽇が出来なくなってしまいました。ツアーの⽇程だけは確保されていたので、僕が兼ねてより「⽇本でトリオをやるならこのメンバー以外に考えられない」と思っていた藪野と中⼭に声をかけたのが結成のきっかけです。

── アルバムタイトルのthirstって「渇き」ですよね。アルバムのタイトルに込めた意味は?

藪野 私たちクリエイターって常に新しい作品を創り続けていて、全⼒でやりきったと思ってもまたすぐに“まだまだ、もっともっと”って気持ちが湧いてくるんですよね。お⽔を飲んでも、しばらくしたら喉が渇くように、とても⾃然に創ることを求めている。このアルバムは私たち、特に作曲陣が、“こんなサウンドが実現すれば”って想いを全部詰め込んだ1枚になっています。

── 今作収録の曲で、作曲秘話や細部のこだわりはありますか?

細谷 レコーディングスタジオ内での確認を念⼊りに⾏ったので、今後配信のみでリリース予定の曲と『thirst』の1曲⽬「Prayer」は、それぞれスタジオの最後の時間に1テイクずつ録ったものが良いテイクになったので、そのまま採⽤しました。

「sombre mind」のテーマ部のベースが、複雑なコード弾きがあるのでなかなか難しいのですが、それを難しく聞こえさせないようにさりげなく演奏しました。…と⾔ってしまっている以上難しく聞こえてしまうかもしれませんが。笑

藪野 「sombre mind」はコロナ禍に書いた曲なのですが、外出ができなくなりスクウェアな空間に押し込められた薄暗い気持ちをそのまま形にしました。それぞれの曲でアドリブ部分もタッチを変えたりそれぞれイメージを持って取り組んでいるのですが、「sombre mind」に関してはメンバーに迷惑をかけながらも、その“苦しみの部分”にとことん向き合って何度も弾かせてもらいました。今聴きかえしても苦しい気持ちが蘇ってきます。笑
あと個⼈的にはトラックが繋がっている部分はとってもこだわって作りました。最初はシャッフルせずに通しでぜひ聴いて欲しいですね。

細谷 Mayim=ヘブライ語で⽔、Lidi=ヘブライ語でリディアンスケール、Spring Hill=テルアビブの英語直訳、Dizengoff=テルアビブの通り(Street)の名前など、随所にイスラエルを感じられるようなタイトルの曲が盛り沢⼭です。

── イスラエルの古い歌曲の「マイムマイム」は広く知られていますから、Mayim(マイム)は日本で一番有名なヘブライ語かもしれませんね! テルアビブがそういう意味だとは知りませんでした。

中山 僕は変拍⼦や有機的に伸び縮みするバンドサウンドの中で、打楽器を使ってテンポをキープする場⾯と思い切って⾃由にアプローチする場⾯のバランスに悩みました。相⼿の話す内容に⽿を傾けながら、⾃分の正直な気持ちも伝えるような感覚でしょうか?楽曲の持つメッセージと奏者の表現する世界観などを想像しながら聴いて頂きたいです。

── みなさんはそれぞれ、どんな音楽家に影響を受けてきたのですか?

細谷 時系列順に、X JAPANとLUNA SEA→Dream Theater→Eberhard Weber(ECM)などのヨーロッパが中⼼のコンテンポラリージャズ→Avishai Cohen(Bass)等のイスラエルジャズですね。
在独時の2015年にEberhard Weberの75歳記念コンサートをドイツのシュトゥットガルトまで観に⾏った際に、⾳楽はもちろんの事、Weber⽒の揺るぎない創造性と⽣き⽅に触れたような気がしてとても感動しました。
niskhafの⾳楽性は、誇張無しで上記に挙げたような今まで僕が影響を受けた⾳楽のエッセンス全てが詰まっていると思っています。

藪野 私はもともとYAMAHA育ちで、なんでも⽿コピで弾いて⽇がな⼀⽇ピアノで遊んでいる⼦供でした。作曲もその頃からずっと好き。どんなジャンルでもいい⾳楽はいい、と思ってなんでも聴いてきましたが、学⽣時代に出会って現在まで最も影響を受けたのは間違いなくBill Evansです。
その頃から⾃分の中で⾳楽の軸となっているのは“切なさと美しさ”。渡⽶してからイスラエル⼈のミュージシャンと意気投合したのはこの“切なさと美しさ”の部分で⼤きく共鳴したからかなと思います。

中山 やはり海外での経験です。
⾃分を表現する為に、また⼈とコミュニケーションをとる為に、⾔語を使うのと同じように⾳楽を扱うことの⼤切さを学びました。帰国してさらにその⼤切さを痛感してます。⽇本を含めいろいろな国の演奏家と⼀緒に⾳を出す経験が得られた事に感謝しています。

niskhaf レコーディング

「歌い紡がれるままに曲ができていく」イスラエルジャズの魅力

── niskhafのみなさんにとってイスラエルジャズの魅⼒とは?

細谷 世界各地にルーツを持つユダヤ⼈とアラブ⼈がイスラエルに集まった事により⽣まれた、アメリカやヨーロッパとは違ったクロスオーバーによる⾳階や変拍⼦などのリズムに代表されるような(日本人の視点で)エキゾチックな⾳楽性。そしてイスラエル⼈のメンタリティーを表す「フツパー(חוצפה)」…これは直訳が難しいのですが、「普通ではできないことを敢然と⾏なう勇気」といった肯定的な意味で使われる⾔葉が⽰す通り、各々の出す⾳の「ストレート」さ。イスラエルジャズはアメリカやヨーロッパよりも更にストレートな気がします。

藪野 エキゾチックなんだけど、何よりも昭和歌謡を思わせるような(笑)懐かしさが一番の魅⼒かなと実は思っています。イスラエルってジャズはもちろんなんですけどフォークシーンがとってもアツいんですよ。弾き語りで素敵な⾳楽を紡いでる⼈が本当にいっぱいいる。ニューヨークにいた頃シナゴーグで演奏する機会がありましたが、その時はPiyyut(ピユート)というヘブライ語の詩⽂の伴奏をしました。ポエトリーや⾔葉を⼤切にしている印象も強いですね。シンガー専⾨じゃない⼈でも表現のためなら臆することなく歌っちゃうところも垣根がなくて好きです。笑

イスラエルジャズも、ジャズとは呼ばれているけど、曲の終わりのコードなんて混じりっ気なしのトニック、テンションコードなしでものすごく朴訥だったり。難しい曲を作ってやろうなんて微塵も思ってないんですよね。メロディーもリズムも歌い紡がれるままに曲ができていく。イスラエリーの佇まいがそのまま⾳になってるなぁって思います。

中山 イスラエル出⾝のプレーヤーは⼤好きですし影響を受けていると思います。ただ、僕は訪れた経験がなく、⼀⼈だけ⾒ている景⾊が違うと思いますが、⼆⼈の好みや経験から感じ取れるイスラエルの⾳楽観を⼤切にしていきたいです。

── トリオのメンバーが様々な国で活動され、たくさんの経験を積んで辿り着いた現在地がniskhafなのだと思いますが、このバンドの活動で⽬指す将来的なビジョンなどがあればぜひ教えてください。

細谷 ワールドツアー! やっと世界と渡り合えるトリオが出来たので。新作も作りながら、ホールコンサートや、e.s.t.のようにスタジアムでの演奏なども狙っていきたいです。

── 細⾕さんのベース、楽器そのものについて詳しく教えてください!個⼈的にAdamovicのベースはすごく気になっています。

細谷 オランダのメーカー、Adamovic Basses*に制作して頂いたAdamovic Halo 6string HollowedBodyと同じくAdamovic concept model “Contrabas” 6string fretlessです。どちらも⼀般的なベースよりも1インチ短い33インチスケール、弦間も少し狭く17mmくらいのスペーシングで⼩さい⼿でも弾きやすくしてもらっています。どちらもホロウボディーなので、エレクトリック楽器ですがアコースティックのアンサンブルに混ざった時にも違和感のない⾳⾊であり、且つエレキベースで演奏する意味を最⼤限活⽤出来るように拘って制作して頂きました。

* 細谷氏はアダモヴィッチ(Adamovic)のエンドーサー。参照:https://adamovic.nl/adamovic-artists/noriaki-hosoya/

── いろいろと貴重なお話をありがとうございました!このこだわりが詰まった素晴らしいアルバムを、ぜひ多くの音楽ファンに聴いてもらいたいですね!

細谷 このアルバムで周りからのイメージが今までは「細⾕=ヨーロッパ」だったのが「細⾕=(イスラエル+ヨーロッパ)÷2」くらいに変わった気がします。笑

⾃分は常に最新作が代表作だと思っておりますが、thirstは今後もniskhafの2枚⽬が出るまではずっと僕の代表作であり続けるような、⾃分のキャリアの中でも⼤事な1枚になったので是⾮お聴き下さい。
⾳楽⾯はもちろん、アートワークやジャケットの紙質にもこだわって作ったので、出来ればフィジカルCDをお⼿に取って頂きたいです!

niskhaf『thirst』フィジカルCD

niskhaf メンバープロフィール

ベーシスト/作曲家の細谷紀彰はアメリカ・ボストン州のバークリー⾳楽⼤学卒業。その後6年間ドイツ・ベルリンで活動し、Falk Bonitz Trio、Swansong Trioのメンバーとしてワールドツアーを⾏い、世界各国のジャズフェスティバルに出演。リーダーアルバムを2枚リリースの他、数々のプロジェクトのレコーディングに携わり世界中でアルバムをリリースしている。2021年徳⽥雄⼀郎RALYZZDIGのメンバーとしてJAZZ JAPAN AWARD2020アルバム・オブ・ザ・イヤー特別賞を受賞した。
Official Site : https://www.noriakihosoya.com/

ピアニスト/作曲家の藪野遥佳は3歳の頃よりピアノを始め、幼少期より即興演奏や作曲に親しむ。クラシックピアノを都丸恵⼦、進藤郁⼦、池澤幹男の各⽒に師事。
国⽴⾳楽⼤学演奏学科ピアノ専攻卒業。ジャズピアノを⼩曽根真、⼭下洋輔、佐⼭雅弘の各⽒に師事。2010年3⽉、同⼤学応⽤演奏コース(ジャズコース)⾸席卒業⽣に贈られる“⼭下洋輔賞”を受賞。同⼤学卒業後、バークリー⾳楽⼤学に⼊学。 2012年12⽉、同⼤学ジャズ作・編曲科を卒業後、拠点をニューヨークにうつし、2013年よりイスラエル⼈ベーシスト、Ehud Ettunとのコラボレーションプロジェクト“The Yabuno Ettun Project”を始動。2014年7⽉に初のアルバム『BiPolar』をリリースし、カナダ、アメリカでリリースツアーを敢⾏。2015年、双⽅の⺟国である⽇本、イスラエルでのHomecoming Tourを実現。セルビア、スロベニア、ハンガリー、ポーランドでも公演を⾏う。2016年に帰国後ピアノトリオ“niskhaf”を結成。現在Internal Compassをはじめとする様々な⾳楽プログラムで特別講義を⾏う他、⽇本国内外での演奏活動をするなど精⼒的に活動中。
Official Site : https://harukayabuno.com/

ドラマーの中山健太郎は2006年、ボストンのバークリー⾳楽院に奨学⾦を得て⼊学。
卒業後、活動拠点をNYに移し、様々なミュージシャンと共演を果たす。さらに、NYを拠点に世界で活躍するジャズドラマーの⼀⼈であるClarence Pennに師事。ドラミングを習う傍らアシスタントも務め、多くの現場を肌で感じることの出来る貴重な経験も得る。
2014年から拠点を⽇本に移し、2015年にピアノ(⼤⾕愛)とドラムのデュオユニット「めぐたろう ・MEGTARO」を結成、ジャズを中⼼に幅広く活動中。
Official Site : https://www.megtaro.com/

niskhaf (נסחף) :
細谷紀彰 (Noriaki Hosoya) – bass
藪野遥佳 (Haruka Yabuno) – piano
中山健太郎 (Kentaro Nakayama) – drums

Niskhaf - Thirst
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