聴く者を物語の世界に引き込む魅力的なピアノ・ジャズ
スウェーデンのピアニスト/作曲家、ヤコブ・カールソン（Jacob Karlzon）の新譜『Wanderlust』は、ジャズの伝統に根差しつつも、そこに独自のエッジを加えることを身上とする気鋭音楽家らしい魅力的な作品だ。
基本的な編成はオーソドックスなピアノトリオだが、メタルやエレクトロ、さらにはスウェーデンの伝統音楽にも影響を受ける彼の作品は一筋縄ではいかない。音楽に対して常にオープンな姿勢で、最新のテクノロジーにも積極的に手を伸ばしてきた稀代のアーティストは随所に音のスパイスを加え、理論的にも感覚的にも独特の世界を次々と描き出していく。それでいてエキサイティングな即興の醍醐味を失わないのが彼の音楽の最もたる醍醐味で、彼自身が“テクノオーガニック（technorganic）”と表現する精神性が最高の形で表れているのだ。
ピアノトリオにシンセなども重ねられたサウンドは壮大な風景画のよう。
アルバムの収録曲はどれも素晴らしく魅力的だ。
楽曲に秘められたストーリーに想像を駆り立てられるドラマティックな展開、阿吽の呼吸で奏でられるトリオのアンサンブル、芸術作品として聴衆に“伝える”ことに重点を置いたサウンドプロダクション等々、現代的なジャズの魅せ方としてひとつのお手本となるような作品。
Jacob Karlzon プロフィール
ヤコブ・カールソンはスウェーデン南部の都市ヨンショーピングに1970年に生まれた。当初はクラシック・ピアノを習っていたものの、即興が好きという理由でジャズを学び始め、1996年にアルバム『Take Your Time』でデビュー。
スウェーデンを代表するジャズ・シンガーであり文豪トルストイの玄孫であるヴィクトリア・トルストイ（Viktoria Tolstoy）とは同い年で、しばしば共演している。
2010年にはスウェーデンのジャンゴドール賞を受賞、そしてジャズ・ミュージシャン・オブ・ジ・イヤーにも選出。2012年に世界一のピアノメーカー、スタインウェイズ＆サンズと契約。2015年にはスウェーデンのラジオのリスナー投票でジャズ・グループ・オブ・ジ・イヤーにも選出された。
Morten Ramsbøl – bass
Rasmus Kihlberg – drums
Jacob Karlzon – piano, electric piano, synthesizer, programming